第8章 色欲

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 三郎は順慶の心を置き去りにして、既に答えたと言わんばかりに月ばかり眺めている。  気の利かぬ三郎が酌をしてくれる訳もなく、手酌で会話もなく一人酒の体で順慶は杯を重ねた。  月を眺める三郎の心を今占めているのは恐らく父なのだろう。  そして己の心は今── 「月が好きか?」 「────」  順慶は三郎の空の杯に酒を注いでやる。  どちらが殿か分かったものではない。  振り向きもしない三郎のつれない態度にも慣れたものだ。 「では何故月ばかり眺めているのじゃ?」 「形が変わって面白い。」  如何にも三郎らしい答えに満足し、順慶は酒を煽った。
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