第2章 曼珠沙華

6/65
111人が本棚に入れています
本棚に追加
/668ページ
「なーなーなー」  三郎が寺の門を叩きながら叫んでいると、ぎっと音を立てて内から開いた。 「おじゅっさんに……」  寺男は三郎を下から上まで舐め回すように眺めた後、無言で顎をしゃくり中へと促す。  中に通されると、寺の住職とおぼしき老人がやってきた。 「三郎、髪がえらいがっそう(髪がばさばさ)やなぁ。折角きれいな顔してんのになぁ。後で湯浴びよな。これ、儂にか?おおきに」   握った曼珠沙華を差し出す三郎の表情に余り変化は無かったが、住職の言葉に微かに頬の強張りが取れたようにも見えた。 「そこ、どないしたん?また、おとにやられたんけ? 」  住職が三郎の額を指差して顔を顰める。
/668ページ

最初のコメントを投稿しよう!