見えない悪意

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 ワイドショーは、どこかの中学校の虐め問題を取り上げている。一人の生徒を複数のクラスメイトがSNSを使って虐めていたらしい。  司会者の男性が大きな声で批判している。織田さんがそれをうんうんと、同じスタジオのコメンテーターのように頷いてた。 「まぁ君は、中学二年生だっけ?」  急に振られた会話。ちょっとびっくりして、俺はハイと短く答えた。 「そうー、楽しい? 中学校。ここだと、小学校はどこかしら? 第二小学校かな。あ、そこだとおばちゃんの知ってる子ともお友達だったかしら。でも学年は同じかなぁ。たしか長谷川君って言ったんだけど、どう? わかるからしら? ああ、でもあそこは子供の数は毎年多いのよねぇ。クラスは何クラスあったのかしら。昔は今よりもっと子供の数も多くてねぇ、おばちゃんの子供の頃なんて、一つの学年で8クラスは当たり前だったのよぉ」  俺は返事を返す隙も与えられず、織田さんの止まらない喋りを聞かされた。  元々は別の地区で暮らしていた事、離婚してこのアパートに越してきた事、身体を壊して一気に老けてしまった事。  どこまで自分語りが続くのか。  正座していた足も痺れ始めて、俺は織田さんが息継ぎをするタイミングで声を上げた。 「あの、もう帰っていいですか」  その途端、織田さんの口がピタリと止まる。  織田さんの目がまん丸になった。喋り過ぎて口の端に白い(よだれ)がついている。 「……は?」 「いえ、あの、俺もう帰らなきゃ」 「帰るって、どこに?」  何を当たり前の事を。そう言いたかったけど、織田さんの雰囲気はそれを言えるものでは無かった。 「……自分の、家に……」  いつの間にか日も暮れて、電気を点けていない部屋は薄暗くなっていた。冷えた空気の中にテレビの楽しげな音がアンバランスに響く。
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