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第11話・死して尚・・・
どうやって着替えたのか、とても喪服としては、素敵なゴージャスな服に怒りを覚えたのだけは憶えている。
車に乗り堺田の運転で葬儀場に着き、八重子は父の顔を見たくないと思った。
これが夢なら早く覚めてとすら思った。月並みな考えに八重子は自分が、おかしくなったとすら思った。
無理に笑顔を作ってみたが、悲しみが体を支配していると分かり、無気力感にさいなまれた。
葬儀場に着くと、通り過ぎる人が挨拶をする。自分を見て悲しそうに挨拶をする。
誰が誰だか分からなかった。
すると前から三人の人が、一人は明らかに知っている人だった。
「八重子ちゃん!」
と声をかけられ、それが船越だと気付いた。思わず胸に飛び込み泣きたいと、走り出そうとすると、八重子の腕を堺田が引っ張り止めた。
振り返ると、堺田は悲しげに首を振っていた。八重子は荘一郎の娘で、この人は敵なんだと、初めて、いや今まで素知らぬ振りをして封印していた考えに改めて気付かされ、涙を、一滴流すと。
「有り難うございます」
と丁寧に深々と頭を下げ、促されるように腕を堺田に抱えられて、葬儀場の中へと入っていった。
御家族様待合室と書かれた部屋に通され、堺田と二人、そこにある椅子に座った。
堺田は無理に笑顔を作り、お茶を用意しだした。いつもなら逆の立場だった。
一瞬ハッとしたが最早、気力が無かった。
八重子の前にお茶が出された、お茶菓子がテーブルにあった。北海道の名物のお菓子だったので、八重子は昨日の話を思い出した。
母の親戚でも来ているのだろうか?
弟がいると言っていた様な、八重子の記憶は混乱していた。
何が自分の事で、何が母の事なのか分からなくなっていた。黙ってお茶を見て、手をつけようとしないので堺田が、
「コーヒー持ってきますね。給湯室にあった、アイスでいいですか?」
と聞いた、八重子は軽く頷くだけだった。
そして葬儀が始まった。床に正座ではなくパイプ椅子が沢山用意され、そこに座らされた。
八重子は棺にどうしても近寄れなかった。見たくなかったのだ。動こうとしない八重子に堺田が、
「最後に会ってください、お別れを」
と言った。
そうだ客が来たら、最早、火葬場まで会う事は叶わない。八重子は立ち上がると棺に近寄った。棺のプラスチックの透明の窓に父の遺体、顔があった。顔しか見えなかった。
八重子は棺を開けずに、そのままスーッと抱き締めるように棺を抱いた。
冷たかった、とても冷たかった。それが悲しくて、涙が溢れ嗚咽が漏れた。
しばらく、そうしているとお客様が入ってきた。
その時!八重子は。
皆で父を殺す気だ。
何故か八重子は、このまま燃やされるのが我慢できずに泣きながらお客を睨んだ。
そして、
「帰って!父は!。帰って!私は信じません、皆帰って!」
と叫んだ。皆は立ち止まり動揺した。
すると堺田が、
「お止めなさい、冷たいむくろを抱き締めるのは!最早、いないのです社長は!」
と怒った。
「酷い!あなたは酷い人、悲しくないの?
他人だから?このまま燃やすの。父の存在を消すの?!」
と大声を挙げた。
お客は中に入れずに騒然としだした。泣き叫ぶ八重子を見て堺田は、
「船越!!」
と叫んだ。客の中に警察関係者が数人来ていたのだ。それを堺田は確認していた。
船越は1人走り寄ると、堺田は、
「頼む、これでは葬儀が出来ない。八重子さんを連れていってくれ」
と頭を下げた。船越は頷き、
「八重子さん」
とその体を棺から引き離し、抱き寄せると奥の待機室へと連れていった。
警察関係の1人が顔に手を当て、
「あーぁ」
と言った。まさに今、船越が水谷に懐柔された捜査官だと、知らしめてしまったからだ。
堺田は心痛な面持ちで僅かに、口角を上げた。
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