第11話・死して尚・・・

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そして、(これで警察の捜査は混乱するだろう。社長がいない今、時間を稼がせてもらう)と心の中で思っていた。 八重子は泣きじゃくり、最早どうしようもなかった。船越は、 「家まで送ろう」 と言った。すると八重子は、 「私は、あの人の娘なの、娘なのよ。 なのに、昨日はようやく一歩近付いたのに、心を許してくれたのに。3人で暮らそうとまで言ってくれたのに・・・、うっ」 意味は半分程しか汲み取れなかったが。 このままでは、どうしようもないと思い船越は、 「行こう」 と肩を抱き八重子を車に乗せ家へと向かった。八重子は家に着くと服を船越の前で脱ぎ散らかし下着姿になった。船越は寝室から部屋着を取ってきて、 「これを着て」 と渡した。八重子はその優しさに少し落ち着きを取り戻し、ダイニングテーブルの椅子に腰かけた。そして、 「私、思い出したの。あの人、父は私に会いに来ていた。私が小学生の頃、隣の家族が座るシートにいたおじさんが親しく声をかけてくれて。父のいなかった私は、優しいおじさん、父もこんな人たったのかな?と思い、又会いたいと駄々をこねたら。 3年間いつも運動会の時来てくれた。1人で現れ、私達のシートで一緒にご飯を食べてくれた。母は特に声もかけず話もせず、お弁当を出してビールを渡していた。 それが不思議で、連絡をとったのかな? と小学生だから、父兄会PTAの会で話したのかなとしか思っていなかった。 あれは父よ!父は会いに来てくれた。 多分、中学の時も高校の時も、人知れず目立たない様に、文化祭や学園祭にと来てくれていたんだわ! 父は私を愛してくれていた! なのに何故、娘と言わず認めず死ぬの?! 何故・・・」 船越は、 「そうか娘だったんだな、やっと分かったよ。でも、君の履歴にはまったく出てこなかった。離婚歴があるとお母さんの方は分かったが、相手が誰なのかは、名前からは判断出来なかった」 「えっ?・・・」 書類を調べ戸籍を調べても、父との事が分からない。確かに私は知らなかった。 松島と言う名も母の旧姓、戸籍を見る事はあっても、顔も知らない人の名前が父親の欄にあるだけ、しかも死亡とあった。 あっ!父は2度死んでいる。 ならば・・・、でも見た遺体を。 しかも警察も検視し、病院の死亡診断書も。 八重子は最早、何も考えられないでいた。 八重子はその日火葬場にも行かず眠り込んでしまった。 そして船越も1人にする事が出来ず、泊まり込んで朝までいてしまった。 警察は遂に二人は・・・、と目を被うばかり。そして、監視と言う名の盗聴盗撮をしていた堺田の部下は、二人が男女の関係を持ってしまったと確認したあと、静かに機械のスイッチを切り堺田に報告を入れた。堺田は、 「そうか・・・、二人は。分かった」 と唯、漠然と報告を聞き電話を切り。 「船越が八重子さんを連れて逃げてくれれば・・・。いや私の部下の傍の方が安全か。二人とも」 と眉間にシワを寄せ考えていた。
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