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劉邦のほほに冷たい汗が流れた。どう考えても、この場を今すぐ逃げる方法が思いつかなかった。
ざっと音を立て、項荘がこちらに向けて一歩を踏みしめた。誰も何も言わない。項荘の背に隠れて、項王の顔も、范増の顔も見えない。項荘は片手に掲げていた剣を下ろし、ゆっくりと両手で剣を構えた。そのままに歩前に進み、ゆっくりと滑らかな動作で剣を大きく振りかぶる。その顔をはっきり張良は見た。その表情を張良は戦場で知っていた。武人の顔だ、人を殺すことを覚悟した者の―。
いけない。張良は慌てて劉邦のほうに飛びよろうとした。
その時だった。
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