項伯

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「私がお相手しよう」 項伯が微笑を浮かべて立ち上がった時、その笑みは確かに范増に向けられていた。口の端を歪めた、しかし目は消して笑ってはいないあの不快な微笑を浮かべて、真直ぐに范増を見据える。 ーあの男。 范増はかっと顔に血が上った。阿修羅のごとく顔は怒りに歪み、杯を持つ手は怒りで震え、青筋が何本も浮かび上がった。 ーかくなる上も、俺の邪魔をするのか。 項荘は一瞬困惑して范増に視線を投げた。 どうしたらよいですか、ご命令を中止するか、もしくは遂行するか。 ―たとえこの者を殺したとしても。 范増は項荘をにらみ返す。それを見た項荘はそのまま項伯に向き合った。そのやり取りの意味が分かっているはずの項伯の顔色は一分も変わらず、やはり自らも構えた。まるで何も見ていないかのような、飄々としたそのしぐさに、范増ははらわたが煮えくり返るかのようだった。 一瞬、項羽がこちらを見た気がした。しかし、范増が項羽にその理由を問う間も、項羽が何を言う間もなかった。 2人の剣が互いにかち合う。と同時に、范増の手の内にあった小さな陶器の盃がぴきりと音を立てた。
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