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かくして、一行は鴻門に着いた。劉邦は項王にぜひ拝謁したい由を取り次がせた。取次はややたって戻ってきて、劉邦と供を一人連れて陣中へ来るようにと言ってきた。劉邦は張良を呼んだ。張良がそれを断るわけもなく、残りの供は軍門で待機させることとなった。劉邦は心配そうな彼らに二三事励ましの言葉をかけると、そのまま取次の後に続いて歩いて行ってしまった。劉邦は慌ててそのあとに続きながらも、心の中で臆病な己を叱咤した。
待つように、と言われた場所には、土の上に薄い敷物が敷いてある狭い場所だった。白い天幕で地面が区切られ、見上げると空が見えた。穏やかな夕刻だった。頭上の群青色の空は、緩やにすみれ色に代わり、その上を傾いた夕日から伸びた、黄金色の帯が伸びている。この緊張がどうにかすると馬鹿らしく思えてくるような、白々しいまでに穏やかな午後だった。もしや追い返されても致し方ない、いや、それよりも最悪なことはー。
しかし、張良の緊張をよそに、実にあっさりと劉邦と張良は項王の前に通された。
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