鴻門にゆく

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 項王項羽は、取り次ぎから劉邦が謝罪にやってきた旨を陣中で范増、項伯とともに聞いた。范増はそれを聞いて、視線を落としてふうと息を吐いた。項羽の脳裏には、終ぞやってきた曽無傷の言葉がよみがえった。 「お会いになるおつもりですか」  范増は静かに項羽に問うた。項羽が口を開きかけると、項伯が横から口をはさんだ。 「ぜひ会いなさい、項伯よ。臣下が謝罪を申し入れてきたら、徳のある君主はそれを聞き入れるべきなのだ」  項羽は少し眉をひそめた。それは昨日も聞いた話だ。 「叔父上、わたくしは劉邦に会うつもりです」  項伯は強い口調で言葉を返した。項伯は安堵したようにいつもの柔和な笑顔を浮かべた。 「我らが項王は正しい選択をなさった」  項伯が出ると、項羽はふんと鼻で笑って范増と目配せをした。 「叔父上の話を聞いてやったぞ」  最近、項羽にとって項伯とは、ただの口うるさい叔父でしかなかった。昨日は特にだ。
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