プロローグ:大きな樹と通り雨

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プロローグ:大きな樹と通り雨

「もう……間に合わない」  突然、僕は出したことのない高い声を出した。  ここはどこだろう?  辺りを見渡そうとするけれど、頭どころか目も動かせない。  もしかして、これが金縛り? 初めて金縛りになったよ! わぁー! なんか新鮮! ってそんな場合じゃなかった!  金縛りの時って、おばけっていうのが出るんだよね? どんな格好しているのかな? お友達になってくれるかな? わくわくしてきた! ってそんな場合じゃないよね!  しばらく待ってみる。  …………  ……  あ! まばたき! まばたきは出来るんだね!  見える空はすっごい綺麗な青色。  ずーっと向こうまで続いていて、終わりがないみたい。  ……あれ? おばけって明るい場所に出ないんだっけ?  勝手に体が動いて、僕の頭の上にあるなにかを右手で押さえた。  うしろから強い風が吹いて、その頭の上のなにかと数本の金色の綺麗な糸がなびいて見えた。  白。  頭の上のなにかは白くて平たいものだった。  これって……  これって、サンバイザーってやつかな? すごい! 僕もサンバイザーをかぶれるようになったんだ! うれしい! 昔にかぶった時は、目が隠れちゃって前が見えなかったのに!  あれ? そういえば、目線が高い気がする。  それに、なんで僕はさっき右前足じゃなくて、右手(・・)って思ったんだろう。  あれれ?  目がゆっくりと下を向いた。  深い緑色の地面に……これは、服?  白いリボンがいっぱい付いた白いふんわりとした服。  ドレスっていうのかな。  よくわかんないや。  だって、僕っていつも服着ないもん! 「やっと動きやすい体になったんだけどな」  足元の大きな樹を見下ろしながら、僕がそう言った。  なんだか女の子になったみたい。  ……あれ? なんで樹の上ってわかったんだろう。  それにこんなに高いところなのに、風はさっきの一回だけで、それから全くないね。  不思議だなー(許せない)。 「あの不心得者共に文句を言いたいが時間がない。一度離れるから後よろしく」  ボクは後ろで気怠そうにしている四人にそう言った。 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 「おはよう」  どこか安堵したような声で僕は目覚めた。  僕はいつも窓の近くで寝ているんだ。  ここから見える庭が綺麗で好きなの。  まあ、もう見えないんだけれどね。  いつからか覚えていないけれど、僕の目は曇ったみたいによく見えない。  でも大丈夫。僕は鼻がいいからね。  この匂いは……“ときこ”だ。  僕はうれしくなって、重たい頭を上げて、匂いのする方に顔を向けた。 「若葉そ…なところ…………たら、か……くよ」  そう言っていつものように、“ときこ”は近付いて来て頭を撫でてくれる。  “若葉”は僕の名前なんだよ。  みんながそう呼ぶから知っているんだ。  でもこんな時間にどうしたんだろう? 僕まだ眠いんだけれどなあ……。 「若葉、こ…な…つ…たくなっ…、そ…な…ここがす…なのか…? おも…ばあの…もこのくら…つ…た…ふゆのあさだった…。おぼ………るか…? は………おま…と…あった…のことだよ」  うん、覚えているよ。  まだ“しん”がいた時だよね。 「やま…そうな……たわた…た…のま……おま…があらわ…た…だ。くわ…るかとおもったよ。だっ…、くまかとおもったもの。……ど、おま…はわた…た…をたす……く…た。あ…がとう。おま…のおか……ま………た…くつ…な……よ。あ…がとう若葉」  僕は“しん”と“ときこ”がよく山で土に還らないものを拾っていたことを知っていたからね。  助けようって思ったんだ。  まあ、途中で倒れちゃったけれどね。 「おも…ばあのと…からおま…は、わた…た…をたす……く………た…だ…。そ…なの…、さ…ぽもろく………や…な……、ご………若葉」  あれ、雨が降っている。  ちょうど喉が渇いていたんだ。  がんばって上を向いて口を開けた。  けれど、すぐに雨は止んじゃった。  通り雨だったのかな。  しかたがない。  諦めてもう一度寝よう。  そして、朝になったら庭を走ろう。  でも、朝は結構先かな。  こんなにも辺りが暗いのだから。 「若葉寝たのかい? ……若葉! ……おやすみ、若葉」
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