遠い束縛

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それから約2ヶ月。 私は夜な夜な、自室でこっそりとマフラーを編み続けた。 クリスマスの前に冬休みに入ってしまうので、遅くとも終業式までに渡さなきゃいけない。 というより、そこを逃したら、三年生は自由登校になるので、もう会えなくなるかもしれない。 早く完成させるためには、編み物が得意なお母さんに教えてもらうという手もあるけど、そうするとマフラーを編む理由を言わなきゃいけない。 私は恥ずかしさからお母さんには頼めず、教本を見ながら一人で頑張ることにした。 でも。 結果的には、お母さんの手を借りることになった。 お母さんも私が夜な夜なゴソゴソしているのになんとなく気づいていたみたいで、ある晩、勉強を終えてクローゼットの奥に隠していた編みかけのマフラーを取り出して振り返ると、いつの間にか部屋の中にお母さんがいた。 「そこはもうちょっと、目を締めた方がいいわね」 「あ、そうなんだ。ありがと…」 何も言わず、何も聞かずにそれだけ言うと、お母さんは私のベッドに腰掛け、色々アドバイスをくれた。 それからは毎晩、お母さんの手ほどきを受けながら、少しづつ編んでいった。 お母さんが、お父さんや他の家族には内緒にしてくれていたのもありがたかった。 「お父さんが知ったら、ビックリするからね」 そう言っていたお母さんの目が、少し寂しそうだったのを、その当時の私は気付くことはなかったのが、今となっては悔やまれる。 そしてようやく完成したマフラー。 お母さんの手ほどきは受けたとはいえ、全て自分一人で編んだので、結果的に終業式ギリギリになってしまった。 そして終業式の後。 センター試験直前で、二学期の終業式の後は卒業式まで自由登校になる三年生。 その実質最後のロングホームルームで、一、二年生より帰るのが遅い三年生を、私は昇降口の前でずっと待っていた。 「あ、山岸先輩…」 私は、靴をケンケンしながら昇降口を出てきた先輩を見つけると、少し離れた位置からそっと声をかけた。 それに気づいた山岸先輩は、少し驚いた様子で、立ち止まる。 周りにいた先輩の同級生たちは、先輩の視線の先の私に気づき、私と先輩を交互に見比べた後、ニヤッと笑うと無言で去っていった。
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