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遠い束縛
それは私が高校一年生の頃。
体育祭が終わった直後だったはずだから、季節は秋。
私は、高校生になって初めてできた初恋の相手、三年生の山岸先輩に手編みマフラーをプレゼントすることに決めた。
大人になった今なら分かるが、手編みのマフラーを贈るのって結構重い。
でも高一の時の私は、それが先輩に自分を気づいてもらうための最良の手段だと思っていた。
その山岸先輩は、私の通っていた私立高校の中でも、かなりの郊外…というか、町外れの田舎から1時間近くかけてローカル線に乗って通ってくる数少ない生徒の一人だった。
その当時私の住んでいた街は、ただでさえ冬になると一晩で膝丈ほどの雪が降るところだった。
それが先輩の住んでいる山沿いの郊外ともなると、朝起きたら腰まで埋まるほどの雪が積もってることもしばしば。
高校一年生の私は、短絡的に、雪→寒い→マフラーと考えたのだろう。
気がつけば私は、一人街外れのロードサイドにある手芸店にいた。
そしてそこでマフラーを編むための一式を店員さんに見繕ってもらった。
「毛糸の色はどうします?」
店員さんにそう聞かれて、はたと悩んだ。
---先輩の好きな色って、なんだろう。
そうだ、私は先輩のことをあまりにも知らな過ぎる。
同じ体育祭実行委員で、一年生の私にも、気さくに話しかけてくれる優しい先輩。
その体育祭では紅組応援団長として、学ランを着て、鉢巻き姿で応援をリードしていた先輩。
たまに廊下ですれ違ったりしたとき、私が挨拶すると、軽く会釈を返してくれる先輩。
実行委員会の後に、残ったみんなでワイワイ雑談しているときに、その他大勢の一人として先輩と会話したことはあるけど、一対一で話をしたことは、まだない。
でも、廊下で会釈してくれるってことは、私が実行委員の後輩だということは認識してくれている訳で。
「毛糸は…、深緑…、この濃い緑色のやつにします」
私はとっさにそう決めた。
私の好きな色でもあるし、先輩の瞳の色が、なんとなく深い緑色のような気がしていたから。
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