Ⅰ あらたまのはる

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Ⅰ あらたまのはる

「5、6、7、…」   笛丸は何やら呟きながら、床に這いつくばっている。廊の長さを尺で測っているのだ。 これを測り終えたら、今度はいよいよ塗籠だった。背を丸めて膝と手を床につき、一心に測定するのは中々骨が折れそうだが、当の本人は嬉しそうに息を弾ませている。 「8、9、…」 せっせと家の大きさをはかる笛丸の頭の上には、うらうらと春の日差しが照っている。まさに三寒四温で、最近は冷える日がい多かったが、今日は穏やかな陽気だった。庭に植えてあった桜も白い花をつけ初め、高欄にその花弁を幾枚か散らした。そしてまたひらりと舞って、笛丸の烏帽子を飾る。 きっともうすぐ満開になって、この新たな門出をお祝いしてくれるだろう、と笛丸は心の中で思う。その様はきっと美しいに違いなかった。 と、背中のほうから嬉しそうな悲鳴が聞こえてきた。 「まあ、今度は唐縁の畳じゃないの」 さっきから、本家のほうから贈り物が絶えない。その対応に、笛丸の妻、須佐は追われていた。次から次へと送られてくる結婚祝いの豪奢な品の数々は、夫婦にとってはこれ以上なかった。 無邪気な恋人の、今となっては妻となった須佐の無邪気な声を聞いて、笛丸はふふと忍び笑いをした。
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