一日目 ②

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一日目 ②

 運命の番。  そんな相手に出逢えるなんて思ってもみなかった。  アルファの〈運命の番〉の相手はどうしてオメガなのだろう?  神様の気紛れなのだろうか?  楓都は〈運命の番〉の存在を兄の秋昴に教えてもらってからずっとそう思ってきた。  同じアルファなら普通に出逢えるし、普通に付き合えて結婚できるのに。  四条辻家の人間ともなると普段の生活の中でオメガに出逢うことはそうそうない。  とは言え使用人は全員オメガではあるのだが、それはそれだ。  アルファの親は万が一にも子供がオメガなどと付き合わないようにと考えているのが常で、極力接触を避けるようにしている。と、ベータやオメガは思うところだが実際は少し違う。  アルファ社会ではオメガは対等な生き物ではないと教えられているし、〈番〉など哀れなオメガが作り出した幻想だと思われているからだ。  関係があったところで、落ちていたおもちゃでちょっと遊んでやっただけ程度の認識なのである。  そして財閥の一族にとって恋愛結婚など〈運命の番〉に出逢うのと同じ程あり得ない。  だが四条辻家は古い馬鹿げた風習や意味もなく蔓延している国民意識に従うほど愚かでもなかった。  一早く時代を読み躍進してきた中で、男女という第一性、アルファ、ベータ、オメガという第二性に対しても各種の特性を生かした尊重を行動で示して来ていた。  この度婚約した長男の相手が男性であることも財界を始め、世間でも話題になっている。  ジェンダーレス社会を推進している団体からは、オメガの雇用形態に次いで賞賛の声が上がるほど、アルファの上流階層での男性同士の婚姻は珍しいのだ。  だが楓都は秋昴と婚約者である偉明が相思相愛であるかといえば疑問を持っていた。選択の余地のある政略結婚だったからだ。  候補は三人、いや、三家だった。その中には女性もいたが一番マシな相手が偉明だったのだろう。相手方にしてみれば拒否権のない完全なる政略結婚だ。  四条辻家のしきたりで楓都はおかしいのではないのかと思うものがある。  それは性技を磨くというものだ。  由緒正しい最高層のアルファが拙かったら恥をかくということらしい。  最初は武道や学問と同じような感覚で、良い結果が残せなければいけないと思い取り組んでいた。スポーツの一環で気が合う仲間と楽しむ行為なのかと思っていたのだ。  四条辻家の使用人、彼らは性技の実技実習を助けてくれるんだと講師に言われた。しかし自らお願いしてはいけない。  前戯は普段の何気ない関りから始まっていると教えられた。相手を尊重し心地よくさせることが出来てようやくスタートラインだと。  そこで及第点が取れれば実技の資格ありと判断され彼らはやって来るのだと。
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