一日目 ②

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 彼らは他の兄弟の所にも勿論訪れる。自分の所にだけ誰も来てくれなくなったら、それはやはり悔しい。  そんな思いで楓都は頑張って来たが、どうもなんだかおかしい気がする。  どうやらそれは好きな相手とする行為だと思い至ったのだ。  どうして夜な夜なやって来る使用人としなければいけないのだ?  使用人だからとかオメガだからとかではない。  結婚したいと思う相手じゃないのに、だ。  しかしやって来る使用人は決まって発情期休暇中で、抑制剤を飲んでない状態である。そうなると身体が勝手に反応するのだからどうにも質が悪い。  心が求めていないのに変な薬にでも侵されいるような状態で身体だけが動くというのは至極気持ちが悪いものだ。  どうしてそんな状態でやって来るのかとこぼした時に夏惟がふわりと言った。 『その状態が一番気持ちいいからですよ、番ならもっと凄いらしいですけどね』  楓都はその時初めて〈番〉という言葉を聞いた。それは何かと訪ねても夏惟は答えてくれなかったので秋昴に聞きに行き、さらなる〈運命の番〉という存在を知った。  使用人がやって来るときは必ず首輪を着用している。それの意味もこの時ようやく分かった。  行為の最中にアルファがオメガの首筋を噛むと番になる。番になるとオメガは番以外との行為が困難になり、発情期のフェロモンも比較的収まるのだという。  話の最後に羨ましいね、と小さく呟いた秋昴の顔が印象的で楓都は今でもよく覚えている。だがその真意はよく分からない。  第二性の各特性は学校で教わったが、番に関しては習わなかった。アルファにとってはどうでもいいことだからわざわざ教えたりしないのだ。  仮に我を忘れてオメガの首筋に噛みついたところでアルファには何の変化もない。オメガ側が勝手に番などと宣って責任を取れと騒ぎ立てるだけなのだから。  アルファ社会ではそういうことになっている。  ただ首筋を噛むと気持ちよくなれるということだけは認識されている。  オメガにとっては一生の忠誠を誓う愛の儀式にも似た行為が、アルファにとっては気持ちよくなるためのちょっとしたオプションというのがこの国での実情なのだ。  そして楓都は四条辻家の実情も知ってしまった。  使用人が四条辻家の子供を出産した際、お互いの合意があり条件が揃えば一族として認知される。  さすがに跡継ぎに名を連ねることは出来ないが、同等の条件で教育を受け関連企業への就職も能力次第で優遇されるのだ。  実は楓都には母親の違う兄が三人、姉が二人いる。  彼らは非常に優秀で秋昴の右腕となっている者もいた。  そんな彼らとは一緒に暮らしてこそはいないものの交流があり、ビジネスマンとしての才覚には些か恵まれていない楓都に対する風当たりは昔から強い。  自分より劣っている者が血筋の良さだけで上に立つことを約束されているなど腹立たしいに決まっている。
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