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「楓都が感じている香りはそのフェロモンということか? いや、でも私の鼻が利いてないだけなのかな? 偉明、ちょっと」
秋昴は偉明を廊下に呼んで匂いを確認させてみる。
「分からんが、あの花じゃないのか?」
廊下にはいくつか花が生けられているが、それではないことぐらい楓都は分かっている。
「やっぱりそうなんだ。ここにいるってことは発情期じゃないんだし、それで俺だけには分かるって運命だ!」
キラキラと目を輝かせて今にも飛び跳ねそうな楓都を、面白いおもちゃでも見つけたように見る偉明に秋昴は言う。
「運命の番が見つかったんだそうだ」
思わず小さく吹き出す偉明を横目に、秋昴は楓都を温かな眼差して見つめた。
「良かったな、楓都。さっきまでここを掃除してたのは今日から来た雫さんという方だ。逃がすなよ、というか出逢った瞬間相思相愛になるんだったな。それでも礼は欠くなよ」
「うん!」
再び駆け出す楓都の後姿を見送りながら偉明は堪えきれず笑い出す。その横で秋昴もニコリと笑みを浮かべた。
楓都は腕時計を見て、そうか! と母屋を飛び出した。もうお昼だ。なら調理担当と給仕以外は寮の食堂にいる。
アスカは寮に向かいながら雫の顔を覗き込む。
「顔赤いよ、大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
そう答えたものの雫はまだ動悸が収まらなかった。身体も全体的に火照っている。風邪だろうか? いや、そんな予兆はなかったし発情期はまだ先だ。
「秋昴様と偉明様に会って舞い上がっちゃった? お二人共素敵だもんね! 拝んでるだけでありがたいよ。で、どこまで言ったっけ? えっと、お昼は十二時から十四時の間でタイミング見計らって行ってね。でも十三時過ぎると冷たくなってて美味しさ半減、ぅえっ!」
アスカの大きな声と同時に雫は巨大な光の玉をくらったような衝撃を受ける。
酷く眩しくビリビリとした電気でも放っているかのような何かに完全に拘束されている。顔も胸も背中もがっしりと覆われ身動き一つとれない。
「いた! 俺の運命の番!」
「運命の番ぃ!?」
そう素っ頓狂な声を上げたのはアスカだ。雫はまだ自分の身に何が起こっているのか理解できていない。
ともかく急激にぶり返す熱と物理的に埋め尽くされている顔に息苦しくなり、もがくと身体は一気に解放された。
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