一日目 ②

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「……その、こう、月並みですが雷に打たれたようなと言いますか、とにかく熱くて」 「熱いって、そういうところが?」  そういう所……?  ハッと気づいて赤面する雫。 「いえっ、全体的に、胸が、胸からバクバクと」  そうなんだ……、と感心したように秋昴は身を起こし椅子の背もたれに身を預けた。 「アルファが一般的なオメガのフェロモンにあたってしまう時は、やっぱりそっち、下半身なんだよね。本能なんだなってしみじみ思うよ。なんだか怖いよね」  秋昴はスコッチを一口飲んで机に肘をつく。その存在感はそれだけで気品を纏い、後ろに高級なシャンデリアでもあるかのような錯覚を覚える。 「漫画だとさ、もう目と目が合った瞬間スイッチオンで凄いことになるだろ? 実際はもっと落ち着いたもんなんだね」 「漫画とかお読みになるんですか?」  その佇まいと話の内容のギャップに改めて驚き思わず心の声が素直に出てしまった。 「読むよ。平凡かちょっと可哀想なくらいのオメガが王子様キャラのアルファと運命の出逢いをして溺愛されちゃう的な王道が大好き」  思わず雫は笑い声を上げハッとして口元を手で隠す。 「それ専用の電子ブックリーダーに千単位で入ってるよ。あれは処分しないと死ねないね。雫さんは?」 「ほとんど読みませんが」 「え! じゃ今度貸す! ああいう潤いは大事だよ」 「……は、はい。ありがとうございます」  秋昴はその後お気に入りの漫画の話を熱く語って戻り、すぐさまブックリーダーを持って再び現れ今度こそおやすみ、と帰って行った。  いつの間にか楓都と雫は〈運命の番〉ということに確定しており、雫も最初のように絶対的な否定感はなくなっていた。  正直なところ楓都に対する想いが募っているのは隠しきれない。  雫はルックスだけで恋心が芽生えるような性格ではないし、根本的に恋愛には否定的な感覚を持っている。    だからこそちゃんと話もしたことがない楓都のことが、こんなにも自分の中に深く入り込んできている感覚に戸惑っていた。  悩ましい。  楓都を〈運命の番〉と受け入れた上で雫は頭を抱えた。
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