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二日目
空がやんわりと白け始めた頃、母屋から出て行く使用人の姿を雫は確認した。例のアレかと思い至った途端、急激に胸が苦しくなる。
二人いたのだ。
婚約者が泊っている秋昴の所に出向く馬鹿もいないだろう。なら夏惟と楓都のところに違いない。
楓都は昨日〈運命の番〉と言って自分を抱きしめてくれたのに。
一人前に嫉妬している自分に気付き、慌てて無意味に右往左往しているとメジチが現れた。十四時には作業に戻るように指示され雫は寮に戻る。正規の使用人ならば一日休みになるそうだが臨時が休みを取っては意味がないと遠回しに言われた。
それもそうだと納得したが雫は悶々としたまま寝付けず、秋昴が貸してくれた漫画を読みだしたら止まらなくなってしまった。
自分には一生関係ないことだから面白い訳がないと思っていた恋愛ストーリー。気付けば共感してドキドキしたり悲しくなったりしている自分に雫は驚いた。
いつの間にかストーリーの王子様を楓都に置き換えて読んでいることに気が付いてからは、何が何だか居たたまれなくなってしまったりもした。
結局変な胸のドキドキが収まらず眠れそうにないので雫は早目の昼食へと出向き、何となく昨日と同じ隅の席に座った。すると窓際にいた人物が雫に近付いて来る。
「あなたのせいで断られたんだけど」
何の因縁をつけられているのかと、恐る恐る目の前に座った人物を見る雫。
「部屋に鍵かかってて開けてくれなかった。扉越しにだって絶対フェロモン届いてるはずなのに凄いね、楓都様」
事態が理解できた雫は自然と頬が緩む。
「あなたが運命の番でも何でもいいけど諦めないからね。オメガのフェロモンに直に勝てるアルファなんていないんだから」
そう言ってテーブルをバンと叩くと彼はその場から立ち去る。
やっかみの理不尽さより楓都の誠実さに対する喜びの方が大きくて、雫は綻ぶ頬と口元をどうにも抑えることはできなかった。
食事が終わると雫はアスカと合流するため母屋に向かう。まだ時間はあるのだが早い分には構わないだろう。
どこかで楓都に会うかもしれない。そしたらどうしたらいいんだろう?
そんな浮かれた心持ちでどこかふわふわとしている足取りに気付き、雫は自分を戒め両手でピシャリと頬を叩いて母屋に入る。
そんなことはあり得ないのだ。
「雫さん!」
後ろから響くその声にピリッと静電気の様な感覚が走り雫は立ち止まる。
振り向くまでもない。楓都だと全身で感じた。
「昨日は突然ごめんなさい。少し話をしてもいいかな?」
ドクドクと心臓が波打つ。背中を向けているのにこんなことでは顔を見たら……。
雫がそう思うや否や楓都は雫の前に回り込み、正面から雫の両腕を掴んだ。
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