二日目

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 その瞬間の感覚はもう理屈ではない。  お互いに何もかもが凌駕された。  〈運命の番〉であると魂が叫んでいた。 「父さんのオッケーが出たんだ。運命の番なら歓迎するって」  雫は意味が分からずポカンとする。 「結婚していいって!」  驚いて声も出ないとはこのことだ。  結婚?  今初めて会ったようなものなのに。挨拶すらしていないのに。  あり得ない、楓都がまたおかしなことを言っている、と頭では判断できる。  しかし雫は既に泣いていた。  喜びが頬を伝い零れる。 「仕事が終わった後なら自由にしていいって。一緒に食事しよう!」  名残惜しそうに雫の腕から手を離すと楓都は少年のように駆けて行く。  雫は滲んだ視界でその後姿をただただ見つめた。  婚約パーティーをいよいよ明日に控え、銀食器磨きに駆り出された雫たちが解放されたのは十時を回った頃だった。  作業中に無駄話をする者はいなかったが、雄弁な視線を雫は常に感じていた。  遂に作業が終わり皆から何を言われるのかと憂鬱な気分で外に出た雫を待ち受けていたのは楓都のハグだ。  ただでさえ視線が痛いのに、と思いながらも雫は引っ張られるままに楓都の部屋へ連れて行かれる。普通なら断固拒否するところだが〈運命の番〉に逆らえる訳もない。  楓都は部屋の扉が閉まるや否や雫にキスをした。あまりの驚きで雫は反射的に楓都を突き飛ばす。  本来なら雫程度の力でどうにかなる相手ではないのだが、楓都はそのまま離れキョトンとした顔で雫を見た。  微かに震える雫の姿に楓都は秋昴の言葉を思い出す。 『礼は欠くなよ』 「ごめんなさい! だよね、そうだよね」  楓都は〈運命の番〉ともなれば言葉もなく求め合うものだと思っていたのだが、その前に人としての礼儀は必要だろうとようやく思い至る。 「なんか毎回謝ってるよな、俺。進歩なくてごめん。あ、また」  もじもじと子供のように指をもてあそぶ楓都の姿に雫は思わず頬が緩んでしまう。また胸の奥から身体中が熱くなる。 「笑った!」  宝物でも見つけた様な笑顔を見せる楓都。
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