二日目

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「うん。今は発情期じゃないんでしょ? 兄さんたちは分からないって言ってた。でも俺だけには分かったんだ。今もふんわりとだけどしてるよ、凄くいい香り」  そう。今まで匂ったことのある、甘くどい下半身と脳髄を直撃して心を欺く不愉快な匂いとは全く違う心地よい香り。  控えめに、でも確かに胸の中心を刺激する。 「……してるんですか……」  とても不可解そうに呟く雫に楓都は得意気に言う。 「発情期じゃない時に、俺にだけ分かるってそういうことだよ。秋昴兄さんの話じゃ、なんかこう、もっと凄いことが起きるような感じだったけど、でも、これでも十分特別だよね」  確かに。本当に楓都がフェロモンを感じ取ったのなら特別だと雫は思う。発情期中で抑制剤を飲んでない状況でもないのに。  だとしたら楓都は今欲情しているのだろうか?  気になるが確認する訳にもいかず雫は目だけが泳いでしまう。 「ねぇ、臨時の雇用期間が終わってもここにいなよ。一緒に暮らそう」 「そういう訳には……次の会社との約束もありますし」  色々と話が急すぎる、とうつむく雫。  そっか、と残念そうに眉をしかめる楓都。 「雫さんは今まで会ったオメガとは違うんだね。俺、てっきりオメガってそういう特性なんだと思ってた」 「そういう?」 「ガツガツしてる感じ」  楓都は言葉を飲み込んだようにそれ以上言わなかったが、雫には言いたいことが分かる気がした。  楓都が今まで会ったことがあるオメガと言えばここの使用人がほとんどだろう。だとすれば色んな意味で積極的な者ばかりなのだから。 「そんな雫さんだからこそ運命なのかも。俺もまだ半人前だし、ゆっくりいこう!」  満面の笑みで雫の手を両手てギュッと掴む楓都の眼差しに、雫はやっと収まっていた熱がぶり返す。  それを感じて楓都も色々と熱がこもりだすのを感じたが、断腸の思いで雫を寮に帰した。  雫はそんな性格じゃないことが分かった。ならばこれから雫が自分から飛び込んで来てくれるくらいに出来なければ今まで何を学んできたのか、ということになる。  ある意味燃える!  そう意気込んで楓都は二人のこれからに胸を膨らませた。  雫は楓都の子供っぽさと共存する誠実さと自制心の高さに深く胸打たれていた。  この人となら、もしかしたら……。  今まで認める訳にはいかないと深く深く押し込めて蓋をしていた想いが、雫の中でじわりじわりと浮かび上がって来ていた。
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