一日目 ①

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 だが私立で高い授業料を払いさえすればアルファと同じ教育を受けられる学校もある。そこには専ら親のどちらかがアルファで裕福なベータとオメガが通っている。  それでもオメガには違いなく、これこのように義務教育しか受けていない雫の様なオメガと同じ扱いになることもある。  雫がそれを良しとしない彼らに辛く扱われたことは一度や二度ではない。覚悟の上だがチクリと痛みジワジワ重く沈んでゆく胸の感覚には慣れない。 「どっちにする? どっちも食べちゃおっか! パーティーの手土産選ぶために色んなお菓子取り寄せて吟味したんだって。そのおこぼれが回って来てるんだ。奥様がとにかくスイーツ好きで単に食べたかっただけって噂なんだけど。いつまで突っ立ってんの? 疲れたでしょ、座って」  さらにどんな嫌味を言われるのかと身構えていた雫は幾分か拍子抜けして座った。  アスカは上機嫌でお菓子を並べると電気ポットをセットしてカップを準備しだす。雫は慌てて下ろした腰を再び上げる。 「私がやります」 「いいって、慣れない環境で神経使っちゃってるでしょ? 一息つきなって」  アスカは正直なだけで悪気がある訳ではないのか、と雫はやや困惑したまま肩の力を抜いた。すると厨房から物音がしてまたビクリと肩が竦む。そんな雫を見て軽く笑いながらアスカが言う。 「メジチじゃないから大丈夫だよ。担当がお茶の準備しに来たんじゃないかな。旦那様と奥様に、長男の秋昴(あきほ)様と次男の夏惟(なつい)様、三男の楓都(ふうと)様には担当者が付いててね。それぞれお付きの執事の補佐みたいな感じ? あ、家人のお部屋は担当者が掃除するんだ。だからさっき必要ないって言ったの」  はぁ、と声にならない溜息とも感嘆ともつかない何かが雫からこぼれたところで休憩室の扉がノックとほぼ同時に開いた。アスカがものすごい勢いで立ち上がる。 「夏惟様!」  その名前に雫もガタガタとぎこちなく立ち上がる。  四条辻家の次男、由緒正しき血筋のアルファともなればこれほどまでに、と純粋に見惚れてしまうほど神々しいばかりに夏惟は美しかった。  完璧に整った顔は全てのパーツが優美としか言いようがない。全体的にシャープな印象で、切れ長の涼し気な目元の奥の瞳は宝石でも埋め込めれているかのように輝いて見える。  黙っていれば怖くも映る美しさだろうが、微かに綻ばせている目元や口元が何とも穏やかで癒される。  身長も高くスラッとした細身だがシンプルで上質なニットに浮き出る身体のラインからは、しっかりと鍛えあげられた筋肉が窺えて隠しきれない大人の男の色気を漂わせている。  その圧倒的な存在感に雫もアスカでさえ息をするのも忘れて固まっていると、夏惟はポコポコと音を立て始めた電気ポットに気付いて優しく微笑みながら休憩室に入って来た。 「丁度良かった。僕もお茶を頂こうかと思っていたところで」  アスカは壊れたおもちゃが突然動き出すかのようにバタバタと手を動かし声を裏返す。 「い、今お持ちしますので、おへ、お部屋でお待ちください!」
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