一日目 ①

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 思わず見た夏惟の指先はそれはそれは綺麗だった。男性とは思えないしなやかで陶器の様な長い指。  今までならそんな指をしたアルファには心の中で悪態の一つもつきたくなるところだったが、夏惟にはそんな思いは湧き上がらなかった。  誠意をもって接してくれた相手には同じように穏やかな尊敬の念しか抱かないのだと、雫は初めてアルファに対して実感した。 「アスカさんは要領が良くて仕事が的確で速いんです。教えてもらうならこれ以上いい先生はいないと僕は思いますよ」  夏惟は雫に向けてそう言うと、照れ笑いを隠そうともせずニヤけているアスカの方を向きしっかりと瞳を合わせて続けた。 「いつもありがとうございます。アスカさんが来てくださってからメジチの金切り声が減って助かってます」  夏惟の口からメジチという単語が出て来てアスカは思わず吹き出してしまう。それにつられるように夏惟も上品に笑い声を上げた。  そこで夏惟のスマートフォンが鳴った。もう、と言いながら確認すると夏惟は電話を切り、紅茶を飲み終わるまでは、と庭の花の話などたわいもないことを語って戻って行った。  夏惟を見送って、そろそろ仕事に戻らなくていいのかと思い雫はアスカを見る。その表情は完全に心ここにあらずだ。それも仕方ないだろう。あんなに素敵なアルファが相手では身の程知らずの想いも抱いて当然だ。  しかし雫にはもうそんな感覚は無くなっている。  いや、無くなっていると思い込まなければいられないだけなのかもしれない。  夏惟は確かに好感の持てるアルファだ。だがそれだけ。  アルファに、誰かに胸をときめかせてもこの種の特性のせいで恋などできるはずもないのだから。 「でもやっぱボクは楓都様狙いかなぁ」  誰が見ても夏惟に恋している瞳で呟くアスカの言葉に雫は呆れる。狙うも何も絶対に無理な相手なのだ。  まぁ、アイドルに恋しているようなものか、と思いながらカップを洗い出す雫。  ありがと! と軽快に言ってアスカは話し出す。 「夏惟様は奥様に瓜二つなんだ。秋昴様は旦那様に似てワイルドな感じ。で、楓都様はイイとこ取りの甘いマスクなんだよ! 楓都様の遺伝子欲しい! 楓都様は避妊具付けちゃうから遺伝子ゲットが難しいんだ。もう秋昴様はしばらくダメだし、夏惟様に再チャレンジしちゃうかな」  カップを洗う雫の手が止まる。何の話をしているのだろう?  この話しぶりだとご子息全てとそういう関係になっているような、それを喜んでいるような……。  まさかここで働くオメガはそういう役割も果たさなければいけないのだろうか? 「どういうことですか?」 「アレ? 聞いてない? あ、そっか条件満たしてないから雫さんはこれに当てはまらないんだ。ここでは発情期になったら直系の方に慰めてもらってもいいんだよ。こんなに良い遺伝子合意で貰えるチャンス中々ないじゃん! だからみんなここで働きたがるんだよ」 「は?」
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