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雫はアスカの言葉が理解できず、本日二度目のフリーズを体験する。
「子供も作ってオッケーなの。色々制約は厳しいんだけどね。それでも四条辻家の遺伝子貰えるなら最高じゃん。アルファの上流階級の中でも最高峰、家柄は勿論ルックスも中身も完璧! もう神だよ! 絶対アルファ産まれそうだし。アルファの親になったら人生勝ったも同然だよね!」
何かが、何かの基本的なスタンスが雫の感覚と違い過ぎている。
「ご、ご子息に呼ばれるんですか?」
「ううん。そんなことはないよ。こっちから行かない限り相手にはしてくれない。でも行けば帰されることはないみたい。ボクはまだ一回ずつしか行けてないんだけどね。夏惟様は浮気はお好みじゃないみたいで、自分の所にしか来ない人にはすごく甘々になるんだって。そりゃそうだよね。普通浮気は嫌だよね。もう夏惟様一筋にしちゃおうかな。でも楓都様が一番良かったんだよね! 勢いで迫ったら生でしちゃわないかな」
「で、でもそういうのは、子供とかは本当に好きな人と」
「ボクらが本当に好きな人と結婚できるワケないじゃん。何? 雫さん〈運命の番〉とか信じちゃってる人? あんなのナイナイ! 都市伝説だからね」
「休憩時間は二十分ですよ!」
扉が勢いよく開いて現れたのは今度こそメジチだった。逃げるように掃除に戻り、同じ要領だからと雫は二階を一人で任されることに。
頭の中ではさっきのにわかに信じられない話がまだグルグルとしている。
雫だって〈運命の番〉なんてファンタジーな話を信じちゃいないし、そもそも恋愛なんて自分には無関係だと思っている。
だが、だからこそ遺伝子欲しさにより良いアルファとしたいだなんて気持ちは理解しがたかった。
そういうものなんだろうか? 好きじゃなくても、いや、好きなのか? アスカはアスカなりの基準で楓都も夏惟も好きなのだろう。
では相手に好かれてなくてもいいのだろうか? 遺伝子さえもらえれば生涯一緒に居たいとかはないのだろうか?
というか四条辻家もそんなことでいいのだろうか? どうしてそんなことになっているのだろう? 財閥では、セレブなアルファ一族ではこれが普通なのだろうか?
要らぬことを悶々と考えながら黙々と廊下の窓ガラスを磨いていると、階段を上がってくる人の気配がした。
夏惟とはまた違う美しい男性。筋肉質なことが一目で分かる均整の取れたスタイルに端正で堅実そうな面差し。凛々しい眉と眼が全体を引き締め威風堂々たる印象を受ける。きっと長男の秋昴に違いないと雫は思った。
横にいるのはもう少し若い溌剌とした印象の男性。三男の楓都? 白いスーツなんて普段着るものじゃないと雫は思うのだが似合っているのだから仕方がない。そしてその後ろにいるのはいかにも執事だ。
三人は雫の方へやって来た。雫は作業の手を止め深々と頭を下げる。ご苦労様、と言ってくれたのは多分秋昴だと感じた。落ち着いた口調が品格のある威厳を感じさせたからだ。
やり過ごしたと思い頭を上げると白いスーツの男性が振り向き声をあげる。
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