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廊下の一番端まで辿り着き、雫はふう、と息を吐く。振り向けばその廊下は陸上競技が出来そうなほど長い。
雫は綺麗になった廊下に清々しい達成感を抱いて外を眺める。例のゴルフ場の様な庭の芝生がキラキラと太陽に照らされて幻想的に映った。
そこに犬が飛び出して来た。今朝敷地内を案内された時に紹介された飼い犬、春太だ。
上流階級には似合わない日本犬の雑種で、柴犬もどきな雰囲気の赤毛のオス。もう十五歳だと言っていたがまだまだ元気な走りっぷりだ。
一瞬逃げ出したのかと思い焦った雫だったが、後ろを追いかける人物が見えて安心した。使用人が遊ばせているのだろう。
まるで兄弟のようにじゃれ合うその姿に雫はほっこりとさせられしばらく眺めていた。
するとその人物が雫の方を向いた。確実に雫に気付き雫を見ている。
ぼんやり光景として全体を捉えていた雫はその視線に気付くと、反射的に怒られると感じてビクリと背筋を伸ばし視線が交わった。
その瞬間雫の身体にとてつもない衝撃が駆け抜ける。
脳天から雷に貫かれ、それが心の真ん中で弾け瞬くような。
体温は一気に上昇し触れる全てを溶かしかねないと思う程だ。
雫はその場にへたり込みジンジンと痺れる自身を振るえる手で抱きしめる。
何も考えられない。
何も分からない。
激しくぼんやりとした心の彼方で、雫の本能だけが〈運命の番〉を感じ取っていた。
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