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運命のいたずら
運命の番。
そんなものが本当に存在するなんて思ってもみなかった。
雫は登録している派遣会社から呼び出され急遽臨時の仕事をお願いされた。
この派遣会社はオメガ専用派遣の草分け的存在で、個人の様々な事情も考慮した派遣先を紹介してくれる。数あるオメガ専用を謳っている派遣会社の中でも、登録者側は勿論雇用主側からも信頼が厚い。
雫は以前の派遣先の雇用期間が終了し、次の派遣先での仕事が始まるまで二週間の期間があった。担当者には職種の希望と細かい要望をきちんと伝えてあるし、今まで紹介された派遣先に問題はなかったので引き受ける前提で話を聞いた。
雫の担当者は第一性が女性のオメガだ。ここには管理職以上だとベータや一部アルファもいるが担当者は全てオメガで、こちらの気持ちをよく理解してくれている。
彼女を見る度に雫は思ってしまう。
『同じオメガでも女性なら良かったのに』
この国には不思議と男尊女卑という概念が植え付けられている。
それがどこから来るのか雫には理解できない。恐らく誰にも分からないだろう。
だが漠然と女性より男性の方が高貴で崇高な生き物という前提が漂っている。
それが第二性のアルファ、ベータ、オメガと絡み合うとより一層の差別にも似た、見えないけれど恐ろしい程屈強な壁が立ちはだかる。
言うまでもなくヒエラルキーの最高層は男性のアルファだ。
なぜか子供を産むのは女性という無駄な概念に縛られているこの国では、有無言わさず女性アルファは男性アルファの結婚相手にされてしまう。
アルファの一族はその血に他の属性が混ざることを極端に嫌う為、ただでさえ少ないアルファの中で女性を娶るのは中々のステータスになる。
ゆえに表向き女性アルファは非常に優遇されてはいるが、孕ませる側になることは叶わない現状があるのだ。
逆に女性オメガは子供を産んで当然という見方がある。
アルファの中でも、正妻とは別に女性オメガを囲いアルファが産まれたら嫡子とする流れは近年珍しくなくなってきている。なぜそこにベータが関わってこないのかと言えば、オメガは一様に容姿端麗な傾向にあるからだ。
それに人口の多いベータは自分達だけで非常に安定した基盤を作り上げており、アルファとオメガの発情期問題に関わるのは面倒だという流れが出来上がっている。どうせ頑張ったところでアルファに適う訳もないので、アルファに従う生き方に何の文句もないのだろう。
ゆえに世の中はベータとそれ以外に大きく隔離されているといっても過言ではなくなっている。
そして男性オメガは〈男のくせに〉という冠を常につけられている。その分、女性オメガより低俗だという位置づけがいつの間にか定着していた。
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