コアラのいのち

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コアラのいのち

オーストラリアのニューサウスウェールズ州、この日は空気が酷く乾燥し、あたりの森林は、山火事からの燃え盛る炎で焼き尽くされていた。 人間も、ひたすら避難しなければならなく、消火も追いつかない。 そんな中、1匹のコアラ。 道を転がるように歩いていき、火の森に帰ろうとするのだ。 自らの帰省本能に従ったのか、自らの森を護ろうと、必死に戦っているようにも見えた。 木に登ろうと、その燃え盛った火の粉を体に被りながら、全身に痛々しい火傷の傷を追いながらもがくのだが、その熱さや、苦しみにひとり動けなくなってしまう。 そんな中で、ひとりの女性が動いた。 彼女は、自ら着ていた1枚のシャツを脱ぎ、上半身を下着姿になりながらも、そのコアラを優しく護るように抱きあげる。 貴重な飲料水だったかもしれない。その手に持ったペットボトルの水を惜しみなく、コアラにかけてあげながら、体についた火の粉を必死に払い除け、布やら布団やらでコアラを守るのだ。 車に乗せ、彼女はコアラの愛護施設へと急いだ。 そこで待ち受けていた残酷すぎる結末を想像できるだろうか。 コアラの火傷は全身にもくらい、最早自然界に戻ることも、今後生きることすら苦痛なものであった。 医師にもどうにもできない。助けた彼女達にも為す術はない。 そのコアラは、そんな彼女達の見守る中、より苦しまず、コアラの為になる最善の手段をと、安楽死という残酷な結末を迎えたのである。 分かるだろうか。 コアラだけじゃない。オーストラリアの心優しき人々が。その場所に生息する全ての生き物が。 戦うべきはずのない『痛み』と戦い続けている。
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