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マイダーリン
それは紛れもなく『プレゼント』だった。
開けられることなく、無造作に後部座席に置かれていた。紙袋からはラッピングされた姿が丸見えだった。丁寧に結ばれた赤いリボンは開封されていない事を物語っている。私は袋を手にすると、躊躇うことなく中身を確認した。
真っ白い手編みのマフラー。
『メリークリスマス&誕生日おめでとう♡来年も再来年もずっと一緒に過ごそうね♡愛より愛を込めて♡』
サンタクロースとトナカイが私を見つめている。その姿は可愛らしく、本来なら微笑ましいメッセージカード。たった三行のメッセージを何度も読んだ。
「愛より愛を込めて・・・・・・」
衝撃的な言葉を口にしてみた。
私は車に乗り込み座ると、夫の様子を思い浮かべた。
結婚当初から平日の帰りは遅いものの、土日は家族と過ごす時間を大切にしてくれている。時には羽を伸すようにと、子供の面倒を一人でみてくれることもある。お酒で羽目を外すようなこともないし、勿論ギャンブルもしない。『良い夫』である。
「浮気?」
そんなことはない。『絶対』とは言えないけれど、日々の生活を振り返っても怪しい行動は思いつかない。それでもこの『プレゼント』は女の臭いしかしない。
いつ? どこで? どんな風に?
私が子供を寝かしつけている間? オフィスで? お洒落なバーで? この車で? そっと手を握りしめたりしているのだろうか。
それともこのプレゼントは嫌がらせ? わざわざ後部座席に? 隠す様子もなく。
「ママ?」
夫の声に思わず手にしていたものを隠した。
夫の視線は慌て顔の私と、その背後からチラチラ見えているものに注がれる。
「ママ、何やってるの?」
「・・・・・・」
「ママ? 大丈夫」
優しい夫の顔に涙が溢れそうになった。
「愛ちゃんって誰?」
聞くつもりはなかった。
「昨日は一緒だったの?」
見て見ぬ振りは出来なかった。
「メリークリスマス&誕生日おめでとう。来年も再来年もずっと一緒に過ごそうね。愛より愛を込めて・・・・・・」
繰り返し読んだメッセージが自然に口から出ると同時に、白いマフラーを夫の首に巻いていた。ぼやけた視界の中で、夫が微笑んでいるのが分かった。
「愛って誰よ!」
涙声の私をそっと包み込む夫の腕は温かかった。
「プレゼントありがとう。愛」
顔を埋めたマフラーからは、私の大好きな甘いアーモンドの香りがした。
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