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やっと本殿まで辿り着いた私と涼子は、お賽銭を投げ入れて手を合わせる。
散々待ったのに、お参りはほんの一瞬で終わってしまうのだから、何だか不合理だ。
「涼子、何かずいぶん長いこと手を合わせてたよね。なにお願いしてたの?」
ヒールが沈み込んで歩きづらい砂利道に気を取られながら、隣の涼子に聞く。
「んー?今年1年、私や家族が健康でいることとか、来月からの公演が成功しますようにとか?」
「なんだ、私と一緒じゃん」
「あ。あとはね」
涼子は私の方は見ず、微笑みながら思い出したように言った。
「私たちが、このままずっと一緒にお芝居ができますようにっていうのもお願いしたよ」
私は思わず足を止める。
涼子が、私とずっと一緒に、とお願いをした?
にわかに信じがたかった。
なぜだろう、彼女は絶対にそんなことを思ったりしないと思い込んでいたのだ
涼子はいつだって舞台上の主人公で、私は群衆の一人だから。――これ、比喩じゃないんだから笑っちゃう。
私たちは随分長い時間を一緒に過ごしてきて、楽しいことも悲しいこともたくさん共有してきたけれど。
涼子にとって、私と一緒にいることのメリットなんてこれっぽっちもないのに。
私だって、涼子と一緒にいることが、時々すごく苦しい。だけど。
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