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明け方、窓を全部開けて換気扇を回し、空気を入れ替えているところで、女たちが目を覚ました。
浩介たちを認めた途端、悲鳴じみた声を上げて騒ぎ始めた彼女たちに、征吾はうんざりしたように首の後ろを掻いて光に目をやる。片目を眇めて顎をしゃくる征吾に、光は「面倒事は全部、俺に押し付けるんだから」と溜息と共に呟いてジーンズのポケットから携帯を取り出した。
互いに抱き合うようにくっつき、引き攣った悲鳴を上げて後ずさる彼女たちの前に膝をついて、光は口の端を上げて笑う。
「シー、静かにしてくれるかな。夜明け前だし、耳障りなんだけど」
二人は怯えながらも光を睨めつけ、一度唇を噛んでから意を決したように一人が口を開いた。
「私たちを、どうするつもりですか」
気丈を装ってはいるが、その声はどうしようもなく震えている。光は目を細めて薄く笑い、手にした携帯を開いて画像を呼び出すと、画面を二人に向けた。
「帰してあげるよ。ただし、おかしなことは考えないこと。もし、警察や周りに俺たちのことを喋ったら、即この画像バラ撒くから」
にっこりと、けれど目だけは笑っていない光に、二人は真っ青な顔で目を瞠り、画像に見入りながら頷く。引き結んだ唇は泣き出しそうに震えるのを堪えているようにも見えた。
「おい、光。とっとと追い出せ」
ひと眠りしたいらしい征吾が苛々したように声を投げてくるのに、ひらりと片手を上げて答え、光は二人を玄関に追い立てる。
「君らも喜んでついて来たんだから同罪だろ。騒ぎ立てる馬鹿じゃないよね? 」
にこりと微笑んで、けれど有無を言わさぬその声音に女たちは目を瞠り、悔しそうに唇を噛むと、せめてもの意趣返しのつもりか荒々しく靴音を立てて部屋を出て行った。
それを冷めた目で見送って、光は欠伸を一つ噛み殺しながらドアを閉める。
彼らのテリトリーに入った時点で、彼女らに否を唱える権利はないも同然なのだ。
傲慢なだけでしかないその論理も、彼らには至って正当な主張で、間違っているなど微塵も思っていない。誰もそれを指摘し、正す者がいないからだ。
リビングに戻った光は、深呼吸をしてから腕を擦った。
「そろそろいいんじゃないか? 」
「そうだな」
光の一言に浩介が頷き、換気扇を止めて窓を閉めて回る。
「俺、一旦帰るわ。レポートが一個あったの思い出した」
伸也が欠伸を噛み殺しながら言うと、悠基が車のキイを手に立ち上がった。
「俺も。今日、ばあ様の誕生日で、食事会に行くから帰って来いって言われてんだ。出るまで寝る」
「ばあ様って、創始者だっけ」
桂の問いに、悠基は肩を竦めながら頷いた。
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