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 手慣れた仕草でワインを注いで、ルカは「どうぞ」と勧める。 「お友達と御一緒ですか」 「ええ、あそこの個室でちょっと」 「余り長く引き止めちゃ悪いですね」 「いえ、どうせ実の無い合コンだし」 「合コン?」  僅かに目を瞠って問い返すルカに、女は「あ」と口を押さえた。次いで、バツが悪そうに笑う。 「私、頭数で呼ばれただけで……相手は大学生で正直、会話について行けなくて帰りたくなってたところだったんです」  あながち嘘でもないらしい顔で言って、女はグラスに口を付けた。 「あなたは大学生じゃないんですか」  首を傾げて問うと、女は可笑しそうに笑った。 「ええ? そう見えますか? 私、看護師なんです。岸原総合病院って、ご存知ですか」  彼女が挙げた病院の名に、ルカは一つ瞬きをする。それから笑んで頷いた。 「ああ、知ってますよ。郊外の大きな病院。昔、祖父がお世話になりましたから。あそこにお勤めでしたか」 「はい、外科に。三年目になります」 「それじゃあ、大学生なんて失礼でしたね。すみません」  申し訳なさそうに頭を下げるルカを慌てて手で制し、女は苦笑した。 「いえ、若く見られる分には嬉しいです」 「大学生と言えば、病院長の御子息がそれくらいじゃないですか」  ふと思いついたように水を向ければ、女は衒いなく頷いた。 「ええ、今日の合コンもその息子さんの伝手で回ってきた話だったんです。でも、ここだけの話、頭の方はあんまり……そもそも、医学部ではありませんし」  声を潜めて言った女に、今度はルカが苦笑を漏らす。確かにあの成績では、父親の後を継ぐのは無理だと思われた。  女のグラスが空になったのに気づいてボトルを持ち上げたところへ、割り込んできた者があった。 「戻ってこないと思ったら、何やってるのよ、アサミ」  些か怒ったような声音で女――――― アサミに声を掛けたのは、どうやら彼女の同僚らしい。 眉を寄せてルカにも文句を言おうと不機嫌な顔を向けたが、ルカを認めた途端、先程のアサミと同様の反応を示した。小さく瞠った目に、色めき立つような気配が宿る。 「ちょ……っと、アサミ、誰よ?」  こそ、と耳打ちしてくる友人の様子に、やや得意げな顔でアサミが笑んだ。 「さっき、そこでちょっとぶつかっちゃって……お詫びにって、一杯奢ってくれただけよ」 「おい、何してんだよ」  苛立った男の声に、アサミと同僚の女は弾かれたように顔を上げる。ルカも、ゆっくりと肩越しに振り返った。 データベースで見た顔が並んでいる。 個室から出て来たのは、男が三人と女が一人。全員揃っていないのに少々落胆しながら、ルカは黙ってグラスに口を付ける。女が足早にアサミの傍へとやってきた。 「ごめん、呼び出されちゃったから、戻らなきゃ」 「え、先輩帰っちゃうんですか?」  アサミが目を瞠って問い返すのに、申し訳なさそうに手を合わせる。 「緊急オペで器械出しの手が足りないんだって。ほんと、ごめん」 「えー、じゃあ私も帰ろうかな」  アサミの隣に立っていた同僚が言い、女性陣の間にはお開きのムードが漂い始めた。 どうやら呼び出された『先輩』が声を掛けた本人であるらしい。
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