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 元々、そう乗り気でもなかったのだろう、付き合いで集まったという雰囲気だった。帰り支度を整えて、同僚が持ってきてくれたバッグとコートを受け取り、アサミは席を立つとルカに向き直る。 「ごちそうさまでした。すみません、騒がしくて」 「いいえ。こちらこそ、付き合って下さってありがとう」  にっこりと返したルカに、アサミだけでなく一緒にいた女性陣が照れたようにはにかんだ。 「じゃあ、お先に」 「ごちそうさま」  口々に言って去って行く女性たちに、菱沼たちは眉を寄せて声を掛けようとするが、店内の客たちの目に気づいてぐっと飲み込む。一応体裁を気にするらしい。  ルカは彼らの様子を視界の端に収めながら、グラスを傾けた。 「おい」  すっ、と影が差したと思うと、威圧を含んだ声が降ってくる。  グラスを持ったまま目を向けると、いつの間にか正面に立っていた菱沼が、きつい眼差しを向けていた。 「何か?」  しれっと問うと、菱沼は片目を眇めて舌打ちをする。 「お前のせいで女が帰っちまったじゃねえかよ。どうしてくれるんだ」 「別に、俺のせいじゃないと思うけど」  表情を変えずに言い放てば、菱沼の顔が赤く染まった。 「お前……っ」 「まあまあ、征吾。すみませんね、騒がせて」  掴みかかろうとする菱沼を宥めたのは岸原だった。 「ちょっと気に入ってた子があんたと飲んでたもんだから、頭に血が上っちゃったみたいで」 「ああ……そういうこと」  鼻で笑って言うと、今度こそ菱沼の手がルカのジャケットの襟を掴む。 「馬鹿にしてんじゃねえぞ」 「そんなに血の気が多いと、お父さんも大変だね、菱沼征吾さん」  ルカの低い囁きに、菱沼が大きく目を瞠った。 「てめぇ、何を知ってる」 「――――― さあ?」  睨めつけてくる菱沼の眼光をものともせず、ルカは挑発的に笑む。しばしルカを睨んでいた菱沼は、低く告げた。 「ちっと顔貸せや」  言うと踵を返し、先に店を出ていく。ジャケットの襟を直すルカに、岸原が口の端で笑いながら囁いた。 「あーあ、怒らせちゃった。征吾を怒らせると面倒だよ」  からかうような声音に小さく笑う。脅しているつもりだろうか。 「虎の威を借る狐、ってやつだね、まさに」  自分自身には何の力も無いくせに。  言外に告げるルカを怪訝そうに見たが、菱沼を怒らせる方がまずいと感じたのか、岸原はルカの背を押して店を出た。  囲まれるようにして店を出ると、向かいのパーキングに停まっていたバンに向かう。ちょうどユーリの乗った車の前を通り、ちらりと目だけで見やると、運転席の暗がりに溶け込んだユーリが微かに頷くのが見えた。  バンには運転手として一人待機していたらしく、菱沼たちが連れて来たルカを見て目を丸くした。 「誰、そいつ」 「いいから出せ」  不機嫌な菱沼に何か察したらしい男は肩を竦めて車を出した。
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