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 差し出された酒を受け取った征吾は、それをぐい、と呷った。漸く落ち着きを取り戻した様子の征吾を後目に、光は男の顔を覗き込む。 「あーあ。せっかく綺麗な顔してんのに、もったいない。口の中切れちゃったんじゃない?でもさ、ちょっと謝ってしおらしい態度でも見せればいいのに、頭固いって言うか、やっぱ馬鹿って言うか」  やれやれ、と肩を竦めた光の台詞に、グラスを傾けながら仲間が笑った。 「綺麗な顔だけど、男じゃなあ。女だったら楽しめたのに」  対面のソファに落ち着いた桂がマリファナを手に、にやにやと笑みを浮かべて言う。男は目だけで桂を見た。 「――――― さっきの合コン相手をここに連れ込む気だったんだろうけど、残念だったな。彼女らはお前らより頭が良い」  冷えた声音で淡々と告げた男に、桂と伸也がふと表情を失くす。構う様子もなく男は続けた。 「今日みたいに合コンの形を取ってる場合は無理だろうけど、ランダムに独り歩きの女性に声をかけて抵抗されたら、その場でレイプして写真撮って、口止めして。……やってたんだろ?」 「……何を知ってる?」  低い声で問い返す桂に、男は口の端だけで笑う。 「ああ、本当にそうなんだ? 最近、女性の独り歩きを狙って襲う奴らがいるって聞いたから、もしかして、と思ったら」  形の良い唇が深く笑みを刻んだ。征吾に馬乗りで押さえられたまま笑う男のその表情に、征吾を始め全員が息を詰める。 「代議士の息子、菱沼征吾。城聖学園大学人文学部二年。総合成績Cプラス。岸原総合病院院長の息子、岸原光。人文学部二年。総合成績Bマイナス。都市銀行頭取の息子、島崎桂。経済学部二年。総合成績C。大手通信企業グループ社長の息子、日野浩介。理学部二年。総合成績Cマイナス。自動車メーカー社長の息子、山村伸也。理工学部二年。総合成績B。宝石商の息子、櫛本悠基。商学部二年。総合成績Cプラス」  すらすらと読み上げるように告げられる自分たちの名に、征吾たちの顔から色が消える。ソファに押さえつけていた征吾の手から力が抜け、どこか恐怖の滲む顔で男から距離を取ろうと後ずさった。  拘束を解かれて起き上がった男は、ぐるりと征吾たちを見回す。次いで、目を細めて笑った。『艶然』と言えるほど、その笑みは美しく色を放つ。 「雁首揃えて頭の出来も似たり寄ったりだな。いつまで親の手を借りて歩くつもりだ」  鼻で笑って言い放った男に、最初にキレたのは桂だった。酒を一息に呷って飲み干し、ガン、とテーブルに置く。 「気が変わった。その澄ましたツラ、歪ませてやる」  低く唸るように発した桂の言葉に、他のメンバーも次々と酒を飲み干してテーブルに置いた。
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