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 酒の勢いか充満する麻薬のせいか。気圧されていた征吾も仲間につられるように再び男の腕を掴む。  刹那、ぐらりと視界が揺らいだ。 「――――― っ、何だ? 」  眩暈の後、突然動悸が激しくなり、征吾は男の手首を掴む手に力を込め、同時に自分の胸を押さえる。訳が分からず仲間を見渡すと、やはり全員が床に蹲り、胸元を掻き毟るようにして息を荒げていた。 「あ……か、は……っ」  そのうち、悠基が鼻血を出して泡を吹き、昏倒する。 「な、何だよ、コレ……っ」  伸也が息苦しさに涙を滲ませた目をきょろきょろさせながら怯えた声を出した。 「こ、これ……まさか薬物中毒の……っ」  床に這いつくばって痙攣する身体を抑えている光の呟きを拾い、男が「へぇ」と片方の口の端を引き上げる。 「一応、医者の息子ってことか。そう、薬の過剰摂取による中毒症状。……に、似た症状を引き起こす、言わば『毒』だよ」  征吾が喘息のように喉を鳴らしながら血走った目を向けた。 「お、お前……」  男は征吾に顔を向け、いっそ優しく微笑む。 「そう、俺だよ。お前らがついさっき飲み干したあの酒に混ぜておいた。自分のテリトリーだからって、油断しすぎなんだよ」  子供に言い聞かせるような柔い声音も、最早、征吾の耳には遠く近く響いて不明瞭に聴こえた。 「遊びが過ぎたな。―――――――――― 地獄へ落ちろ」  男の顔から笑みが消え、冷えた表情で低く告げる。  同時に征吾の身体が力を失い、ソファから床へと転げ落ちた。急激に霞み暗くなって行く視界の中、天井を背にして見下ろす男の、表情の無い顔は美しく、まるで精巧な人形のように見える。  不意に、それに母の顔が重なった。  征吾の頭を撫で、死の床で母は言ったのだ。 『お父さんは今、とても大事な時なの。だから、邪魔をしては駄目よ。――――― お父さんを恨んだりしないでね、征吾』  そう言って、力なく笑った母の顔には、くっきりと避けがたい死の影が差していた。  蘇った記憶の中の母に謝罪しながら、征吾の意識は暗転した。
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