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 宅地開発が始まったばかりの、まだまだ閑散とした区域。郊外の外れで、住宅街からも繁華街からも程良く離れ、街灯も少ないこの辺りは、昼間でも人通りは少ない。更地に住宅会社の看板が設置されてはいるが、まだしばらくは手がつけられる様子はない。  そんな中、ぽつりと建っている高層マンション。昼間はいくつかの部屋がモデルルームとして公開されているが、陽が落ちてしまえば訪れる人もそういない。そもそも、この真新しいマンションは「高級感」が売りで、些か駅やコンビニが遠く立地条件はあまりよろしくない割に、静かさとセキュリティ、外観・内装のグレードから、かなりの値段が設定されている。防音設備も整っていて、新しいマンションの最上階の一室は、征吾たちにとって、都合の良い溜まり場だった。まだまだ入居者の少ないこのマンションは、防音でなくとも周囲を気にしなくていい。  数ヶ月前に宝石商である悠基の父親が息子に買い与えたもの。家に集まって騒がしくされるよりはいい、ということなのだろう。征吾たちにしてみても、好都合だった。  代議士の息子の征吾と、市内で一番大きな総合病院の院長の息子である光。この二人が中心となり、大手自動車メーカーの社長を父に持つ伸也、大手通信企業グループの総帥の子である浩介、都市銀行頭取の息子の桂、それに悠基が常につるんでいる。それぞれに地位と金のある家に生まれ、何不自由なく育ったために我儘で自己中心的な性格。育った環境が似ているからか気が合い、互いの性格もそれなりに把握して干渉しすぎない関係は、浅くはないが深くも無い。興が冷めれば離れて行くだろう。つまりはその程度の付き合いだった。  広いリビングの一画がバーカウンターになっており、それぞれに気に入りの酒を持ち寄ったために、結構な品ぞろえになっている。  リキュール類の数も相当数あり、趣味でカクテルに嵌っている浩介が、今日もシェーカーを振っていた。  大音量で掛る音楽に軽く首を動かしてリズムを取り、カウンターに肘をついて楽しげに見ている女の前に、カクテルグラスを差し出す。 「これ、なんていうの?」 「吉祥天女。飲み易いよ」  にっこりと答える浩介に、女は「いただきます」と呟いてグラスに口を付ける。 「甘くておいしい! これ、梅酒がベースなの?」  はしゃいで尋ねてくる女に、浩介はただにこりと笑った。梅酒は入っているがリキュールと同じ。ベースはウォッカだ。  梅酒が引き立って飲み易くなっているだけで、アルコール度数は結構高い。  女は気づかずにハイペースでグラスを空ける。 「吉祥天女って、何?」 「幸運の女神様だよ。――――― 君みたいな、ね」  ひそ、と耳元で囁くと、女は首を竦めながら笑った。  ちらりと彼女の肩越しにリビングを見やると、征吾と桂はもう一人連れ込んだ女をソファに押し倒している。その様子をスタイニーボトルのビールを片手に、悠基と伸也と光がにやにやと眺めていた。  部屋には、チョコ――――― ハッシシの匂いが充満している。ほんの小さな欠片の筈だったが、そういえば、ここ最近換気を怠っていた気がするから、家具に沁みついているのかもしれない。明日は窓を開けた方がいいな、と頭の隅で考えながら、浩介は女の前にもう一杯カクテルを置いた。  程なくして。  女はチョコと酒で酩酊状態になり、反射的に抵抗はするものの、それは力の無いもので、まるで抵抗にならない。浩介たちは散々遊び、携帯で数枚の写真を撮った。
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