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「――――― 入れ」  低く言った征吾は、とん、と連れて来た男の背中を押して靴のまま中に足を踏み入れる。 征吾は先に立ってリビングに入り、男の背を押しながら光が、その後を浩介と車を運転していた悠基が続く。  ソファで寛いでいた桂と伸也が煙草を銜えて振り返った。 「何だよ、そいつ。女はどうした?」  怪訝そうに眉を寄せて問う伸也に、浩介が肩を竦めて答える 「こいつがフイにしちゃったから、征吾が怒ってんの」 「なんだよー、楽しみにしてたのに」  唇を尖らせる桂に対し、伸也が口の端を歪めて笑いながら言った。 「でも綺麗な顔してんじゃん。女は面倒くせえし力加減間違うとすぐ怪我するけど、男なら頑丈だし、いつもより長く楽しめそうじゃね? 」 「何お前。もう出来上がってんの? 」  ぎゃはは、と声を上げて笑う桂を余所に、連れて来た男は目だけで室内を見回し、部屋に充満する匂いに顔を顰める。 「……ハッシシにマリファナ。酒の匂いと混じって最悪だな、この中」  男が零した意外な呟きに、光は目を瞠って男を見る。 「匂いが分かるのか。――――― お前、何なんだ?」  訝しげに問う征吾に、男は口の端を上げて笑う。そのままつい、とバーカウンターへ行き、出しっ放しのボトルを手にして蓋を取ると、すん、と匂いを確かめてから振り向いた。 「何だと思う?」  自分たちのテリトリーにたった一人放り込まれて、焦りも動揺も微塵も感じられない男の様子に、征吾は苛立って大股で近づいたと思うと、乱暴にその腕を掴む。 「てめぇ、さっきから馬鹿にしてんのか」  蓋を開けたボトルをカウンターに置き、男は目を眇めて呆れたように息を吐いた。 「品も知性もない言葉だな」  冷ややかに吐かれた言葉に、征吾の腕が力任せに男の華奢な身体を傍のソファに引き倒す。それをちらりと見やりながら光達が思い思いに他のソファに寛でいる中、伸也はアルコールランプの上でチョコを炙り、薄い煙と独特の匂いが室内に広がり始めていた。  ソファに引き倒した男の上に馬乗りになり、上から押さえつけると征吾は威嚇するように低く言う。 「えらく余裕じゃねぇか。こっちは六人いるってのに全く危機感を感じてねえなんて、むしろ馬鹿なんじゃねぇのか?」  動きを封じられ、唸るような声音で言われても男は表情を変えず、感情の籠らない瞳で見返す。 「――――― っその目をやめろ!」  ほとんど反射的と言っていい程の速さで振り上げられた征吾の手が、その勢いのまま振り下ろされた。瞬間、乾いた破裂音が部屋に響き、マリファナに火をつけていた桂や悠基が目を向ける。  平手で打たれた男の頬がじわりと赤く染まり、切れた口の端に血が滲んだ。 「ひとまず冷静になれよ、征吾。主導権はこっちにあるんだから」  蓋を開けたままカウンターに置かれていた酒をグラスに均等に注ぎ、仲間に配りながら光が声を投げる。
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