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次の週末、いつも通り、駅前で紗良と待ち合わせる。
ニュースの天気予報で言ってた。
今日は、春一番が吹くって。
5月の陽気になる所もあるって。
だけど、俺は、紗良を傷つけたお詫びをしなきゃいけない。
だから、俺は頑張った。
ハイネックのシャツを2枚重ねた上に、襟付きのシャツを重ね、その上から、緩めにマフラーを巻いた。
駅前で汗だくでそんな格好をしてる俺は、明らかに不審者だ。
周囲の視線が痛い。
待ち合わせ時刻ちょうどに現れた紗良は、元々大きな目をまん丸にして言う。
「翔ちゃん! どうしたの!?」
「紗良、今までごめん!」
俺は謝った。
「俺、別に手作りが嫌いとか重いとか、全然、
思ってないから。
むしろ、紗良の手作りはめっちゃ嬉しい」
そう言うと、紗良は笑った。
「そうなの?
でも、今日、この格好は暑そうだよ?
マフラー取ろ?」
そう言って、俺の襟元に手を伸ばしてマフラーを解いてしまった。
「でも、どうしたの?
今まで、すっごく寒い日でも
しなかったのに」
「しなかったんじゃなくて、
できなかったんだ。
実は…… 」
俺は、ひとつ深呼吸をして、説明をする。
「俺、実は、ものすごい敏感肌で、
マフラーとか、ハイネックのセーターとか、
毛糸が首に触れると、チクチクして
痒くなって赤くなって大変なんだ。
だから、紗良の気持ちはすごく
嬉しかったんだけど、マフラー
出来なくて……
でも、この間、紗良にとんでもない誤解を
させてるって気付いて、このままじゃ
ダメだと思って…… 」
「だから、今日、してきてくれたの?」
俺は黙って頷いた。
「今日は、痒くなったりしてない?」
「そうならないように、万全の態勢で来た」
俺が襟元を指差すと、
「ふふふふっ」
と紗良は吹き出した。
「だったら、そんなに頑張らなくても、
そう言ってくれればいいのに」
「あ…… 」
紗良はずっとくすくす笑ってる。
俺は、きまり悪く目を逸らすことしかできない。
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