5.踊る指先

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 気合を入れた後、私は、待ち針で生地を中表に合わせて止め、半返し縫いを始めた。集中して針を動かし、すべての布を縫い合わせると、中表の生地を表に返す。  まずは頭を完成させるため、ぎゅっぎゅっとバランスよく綿を詰め、丸い形を作る。頭に綿が入ると、鼻を刺繍し、目を取り付け、顔を作る。  手足にも綿を詰めて全てのパーツが完成すると、今度は胴体に取り付ける番だ。買って来たジョイントで手足と頭を胴体に固定する。  最後にお腹に綿を詰め、私はゆうに5時間程かけて、パンダを完成させた。  けれど、 「う~ん、なんだか可愛くない」 完成したぬいぐるみを見て、眉根を寄せる。顔に縫い付けた目の黒い縁取り部分の位置に納得がいかない。  それをほどいて、再び縫い付け直してみる。 「子パンダというより、おじさんパンダみたい……。パンダ、難しい!」  私は、何度も試行錯誤しながら、満足のいく形になるまで、作り直した。 「出来た!」  ようやく納得のいくパンダが出来上がった頃には、時刻はすでに明け方近くになっていた。 「わあっ!もうこんな時間!今日、講義があるのに、寝たら遅刻しちゃうかも……。このまま、徹夜かな」  私は制作に入ると、時間を忘れて没頭してしまうところがある。  少し眠いが、新しい作品を完成させた充実感でいっぱいだった。 (今夜はまた、別の動物を作ってみよう。そうだ、鳥とかどうかな?シマエナガとか可愛いよね)  そんなことを考えながら裁縫道具をしまう。  柏木さんと話すことによって、おそらくモチベーションが上がっているのだろう。私は、制作に対して、今まで以上に楽しさを感じていた。
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