6.初めてのデート

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 思わず夢中になってアプリを見ていると、 「早いですね、弥生さん」 不意に背後から声を掛けられて、心臓が跳ねた。慌てて振り返ると、私の後ろで、柏木さんがにこやかに笑っている。もう30分経ったのかと思って慌ててスマホの時計を見たが、実際には10分しか経っていなかった。まだ待ち合わせ時間の20分も前だ。 「か、柏木さんも早いですね」 「なんだか今朝は早く目が覚めてしまいまして。家でぼんやりと時間をつぶしていても仕方がないので、早く出て来ました。でも弥生さんもこんな早くから待っていて下さるとは思っていなかったので、驚きましたよ。ふふっ、もしかして、楽しみにしてくださっていたとか?」  いたずらっぽい表情で言われたセリフに、思わず頬が熱くなってしまう。冗談なのか本気なのか……いや、きっと冗談だろう。こんな風に、私を惑わせるようなことを言わないで欲しい。 「それにしても、今日の弥生さんは、いつもにもまして可愛らしいですね。空色の洋服が、よくお似合いです。後で写真を撮らせていただけませんか?今日は無断撮影はしませんよ」 「えっ!?あっ、はい」  彼に「可愛らしい」と言われたことに舞い上がってしまい、写真を撮らせてくださいというお願いに、反射的に頷いていた。 「約束ですよ」  念を押す柏木さんに、ぼんやりとのぼせた頭のまま、もう一度頷く。 「では行きましょうか」  柏木さんは自然な動作で私の背を押すと、隣に並んで歩き出した。
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