6.初めてのデート

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 そこは、まるでおもちゃ箱のような世界だった。狭い店の中に、たくさんの雑貨がひしめき合っている。白を基調にした木製の什器に並べられたアクセサリーの数々。レターセットやポストカード。がま口ポーチ。壁にはハンドバッグや帽子が掛けられ、足元の木箱には丸められたポスターが刺さっていた。白いキャビネットの中にはぬいぐるみも陳列されている。 「すごく可愛い!」  両手を組んで店内を見回していると、 「ハンドメイド雑貨を取り扱うお店なのですが、弥生さんはこういうお店はお好きですか?」 柏木さんは、そう私に問い掛けた。 「はい、大好きです!」 「それは良かったです」  店の奥のレジの前に、年の頃40代位の女性店主が立っていて、私たちの会話が聞こえたのか、にこにこと嬉しそうに微笑んでいる。  私は手前の棚からじっくりと商品を見ていくことにした。  アクセサリーは陳列の区画ごとに作家が違うのか、いくつかテイストの違う作品が並んでいる。繊細なビーズのアクセサリーもあれば、青が美しいレジンのアクセサリーもあった。その中に、細かな刺繍が施されたペンダントを見つけ、 「これ、すごく可愛いです!」 私はそっと手に取ると、柏木さんに見せた。 「ええ、可愛いですね。弥生さんにとても似合いそうです」  ペンダントは、アンティーク調の金古美の枠の中に、生成り色の生地が貼られており、黒の糸でうさぎのシルエットと蔦が刺繍されていた。同じ金古美のネックレスチェーンに値札がついていて、5000円(税抜き)と書かれている。 (5000円!)  思っていたより高い値段に驚いて、私は丁寧にペンダントを元の場所に戻した。 (高いなぁ。でも素敵。きっとすごく時間かけて、丁寧に刺繍をしたんだろうなぁ。いつか私もこの人の作品を買ってみたい)  よく見ると、作品の横に名刺が置いてあった。この刺繍作家の名前とホームページアドレス、SNSアカウントが記されている。 「あの、この名刺、いただいてもいいんでしょうか?」  奥の店主を振り返って尋ねると、店主は笑顔で、 「もちろんどうぞ」 と、手で差し示した。 「ありがとうございます」  お礼を言って名刺を1枚手に取ると、大切に財布の中にしまう。
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