1.うさぎたちの秘密

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「あ、雨が降って来た」  私――弥生美咲(やよいみさき)がバスを降りると、雨が降り始めていた。朝の天気予報では、午後から「晴れのち雨」だと言っていたが、予報は的中したらしい。  肩から下げた帆布のトートバッグの中から折り畳み傘を取り出し、急いで広げる。ピンク地にうさぎ柄のこの傘は、私のお気に入りだ。  私は、京都市内の北西・衣笠(きぬがさ)という場所にある大学に通う2回生。  今日の講義が終わり、京都市営バスで、自宅の最寄り駅に帰って来たところだった。  自宅は、京阪電車『出町柳駅(でまちやなぎえき)』界隈のマンションで、東京出身の私は、そこでひとり暮らしをしている。  傘の上を跳ねる雨粒の音を聞きながら、今出川通(いまでがわどおり)を歩いていると、ふと、たくさんの間取り図が貼られた不動産屋のガラス窓の中に、「うさぎを飼いませんか?」という貼り紙を見つけ、足を止めた。 (不動産屋にうさぎ……?)  興味を惹かれ、ポスターをじっと見つめる。店内にいるのだろうかと思い、ガラス窓の中を覗き込んでみると、来客用のカウンターの向こうに、動物用のケージが置いてあるのが見えた。 (……どんな子なんだろう?)  なぜ不動産屋がうさぎの飼い主を探しているのか、興味を引かれた。  うさぎは好きだ。なぜなら、私は、既に3羽もうさぎを飼っている。  これ以上、数を増やすことは出来ないと思いつつも、不動産屋のうさぎのことが気になり、私は、見せてもらうだけでも見せてもらおうと、店の扉を押した。すると、カウンターに座っていた店員が、私の来店に気づき、「いらっしゃいませ」と笑顔を浮かべた。
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