14.雨のち晴れ、時々うさぎ日和。

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 ついに開場の時刻になった。上層階の入り口から、続々と客が流れ込んでくる。最初の一団は会場に入ってくると、それぞれにお目当ての作家がいるのか、他のブースには目もくれず、足早にその作家のブースへと向かって行った。 「すごい。人気作家さんがいるんだ」  しばらく時間が経つと、次第に客は各ブースに散らばり始め、会場は賑やかな様相を呈して来た。  私のブースにも人が立ち寄り始め、 「パンダが服着てる!可愛い!」 「私は、猫がいいな~」 「このシマエナガのチャーム、めっちゃ可愛い!」 色々な感想が飛び交って行く。けれど、 「う~ん、なかなか売れません」 手には取ってくれるが購入まで至らず、 (大きな会場だし、他にも素敵な作品を作っている作家さんがたくさんいるし、私の作品にはあまり魅力がないのかも) 私は落ち込んで、肩を落とした。そんな私の様子を見て、柏木さんは、 「まだイベントは始まったばかりですよ。これからです」 と安心させるように微笑んでくれる。 (そういえば、いつかもこんなやり取りをしたなぁ)  『フォレストマーケット』でのことを思い出し、私は懐かしい気持ちになった。こうしてまた、柏木さんと一緒にイベントに出られることに、喜びを感じる。 「実は今回、告知があまり出来ていないんです。SNSでの告知をサボっていたので……」  柏木さんに告白して失恋してから、気分が落ち込む日が続き、ずっとSNSを放置していた。そのことを告げると、 「なるほど」 柏木さんは顎に手をやり 「では、今日は、新規のお客さんを取ることに専念しましょう」 とアドバイスをくれる。 「はい!」  私は立ち止まる客に積極的に声を掛けると、作品のこだわりを説明した。 「どうぞ、良かったら見て行ってください。この作品は全て私が型紙から起こしてます。お洋服もお着替え出来るように作っていて……」  一生懸命説明をすると、耳を傾けてくれる客もいて、柏木さんのフォローもあり、ぽつりぽつりと作品が売れるようになった。  昼過ぎになると、「イベントを見に行きたい」と言ってくれていた通り、一色君が訪ねて来て、 「うわっ、これ全部弥生さんの手作り?マジすごい!」 目を丸くして、私の作品を褒めてくれた。柏木さんに少し店番をお願いし、一色君と一緒に会場内を回ると、彼は、 「ハンドメイドイベントって初めて来たけど、結構面白いじゃん。マジすごい作品ばかり」 としきりに感動して、シルバーアクセサリーや洋服などを購入していた。
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