14.雨のち晴れ、時々うさぎ日和。

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(この想いが叶わなくても、こうして隣にいられるなら、私はそれだけで充分) 「美咲さん」  彼の横顔を見つめていると、柏木さんがこちらを向き、不意に私を下の名前で呼んだ。初めてファーストネームを呼ばれたことに、ドキッとする。 「は、はい」  どぎまぎとして柏木さんの顔を見上げると、柏木さんはスーツケースから手を離し、私に一歩近づいた。そして、真剣な目で私の瞳を見つめると、 「僕はあなたが好きです」 とはっきりとした口調で告げた。突然の告白に驚いて、一瞬、何を言われたのか分からなかった。 (今、私のこと、好き……って)  けれど次第にその言葉の意味が体に染み込んで行き、心臓の鼓動が早くなる。頬に血が上った。たぶん今、自分は、この上なく真っ赤な顔をしているに違いない。 「でっ、でも、私フラれ……」  気が動転して、声を詰まらせながら、やっとの思いでそう言うと、柏木さんは弱ったように微笑み、 「その際は、申し訳ありませんでした。あなたを深く傷つけてしまった。でも、気づいたんです。僕はあなたが……」 右手を伸ばして、私の頬に触れようとした時、ポン、と私のスマホの通知音が鳴った。 「えっ!?あっ、私のスマホだ。すみません……!」  間の悪さに気まずく思いながらも、慌ててスマホをトートバッグから取り出し、通知を見ると、メッセージアプリに、一色君からメッセージが届いていた。急いでアプリを開けると、『お疲れさま。イベントどうだった?家に帰ったらゆっくり休みなよ』とねぎらいの言葉が書かれている。柏木さんが私の横からスマホを覗き込み、 「一色君からですか」 とつぶやいた。  私は、液晶画面に指を滑らせると、 「『イベント楽しかったよ。今日は来てくれてありがとう』……っと」 文章を入力し、送信ボタンを押した。するとすぐに既読になり、『クリスマスは他に何も出来なかったから、代わりに、年が明けたら一緒に初詣に行こうよ』とのお誘いが返ってくる。  『うん、いいよ』と入力し、送信ボタンを押そうとした時、柏木さんが私の手からひょいっとスマホを取り上げた。そして、勝手にメッセージアプリを終了させてしまう。 「か、柏木さん?」  驚いて振り向くと、突然、肩を抱き寄せられ、私のスマホでパシャリと写真を撮られた。 「???」  訳が分からなくて戸惑っていると、柏木さんは、 「はい、どうぞ」 と言って私にスマホを返した。そして、 「その写真、一色君に送っておいてくださいね」 と悪戯っぽい表情を見せる。 「……っ!」 (えっ、もしかして、嫉妬、とか?いや、でも、柏木さんに限ってそんなことは……)  頬を火照らせながら、声を出せず口をぱくぱくさせていると、彼は手を伸ばし、もう一度、私の体を抱き寄せた。 「好きですよ。美咲さん。……僕以外の人を見ないでください」  耳元で囁かれ、更に体が熱くなる。 (ああ、もうダメ……)  そう思った途端、足元から力が抜け、私はその場にへなへなと座り込んでしまった。 「えっ?美咲さん!?どうしたんです!?」  柏木さんの慌てた声が遠くに聞こえる。  私はぼんやりする意識の中でその声を聞き、ただただ幸せを噛みしめていた。 *
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