14.雨のち晴れ、時々うさぎ日和。

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 1月1日の18時半。既に日は暮れていたが、八坂神社の楼門前は初詣に向かう人々で賑わっていた。 「もうそろそろ来るかな?」  私は今日、柏木さんと一色君と初詣に行く約束をしていた。腕時計に視線を落とし、時間を確認する。すると、 「こんばんは。あけましておめでとうございます」 いつの間に側までやって来たのか、柏木さんに声を掛けられた。 「あっ!気づきませんでした。おめでとうございます、柏木さん」  慌てて返事をすると、柏木さんはにこっと笑った。 「一色君はまだなのですか?」 「はい」  そう答えた時、トートバッグの中で、スマホが音を立てた。取り出してみると、一色君からメッセージが届いている。 「『ごめん。バスに乗り遅れたから、少し遅れる』……だそうです」 「そうですか。ふむ……」  柏木さんは顎に手を当て考え込む様子を見せたが、すぐに顔を上げると、 「なら、先に初詣に行ってしまいましょう」 悪戯っぽい表情で、片目をつぶった。 「えっ?でも、一色君がまだ来ていませんよ。先に詣でたら、申し訳ないです」  私が横に手を振ると、柏木さんは、 「遅れる方が悪いのです」 ときっぱりと言い切った。 「美咲さんの今年最初の初詣は、僕が貰います」 「え、ええっ?」  戸惑っていると、 「さあ、行きましょう」 柏木さんは、自然な動作で私の手を取った。 (……!)  初めて手を繋がれ、心臓が跳ねた。  私を軽く引っ張り、柏木さんは階段を上っていく。  ふたりで連れ立って西楼門から境内に入り、手水舎で手と口を清める。参道にはたくさんの屋台が出ていて、いい匂いが漂っていた。晴れやかな表情の参拝客の流れに乗り、本殿へ向かって歩き出す。 「一色君が来たら、後でもう一度、詣でましょうね?」  どこか勝手な柏木さんを見上げ、念を押すと、 「ええ、構いませんよ」 柏木さんは、ふふっと笑った。 
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