320人が本棚に入れています
本棚に追加
/290ページ
1月1日の18時半。既に日は暮れていたが、八坂神社の楼門前は初詣に向かう人々で賑わっていた。
「もうそろそろ来るかな?」
私は今日、柏木さんと一色君と初詣に行く約束をしていた。腕時計に視線を落とし、時間を確認する。すると、
「こんばんは。あけましておめでとうございます」
いつの間に側までやって来たのか、柏木さんに声を掛けられた。
「あっ!気づきませんでした。おめでとうございます、柏木さん」
慌てて返事をすると、柏木さんはにこっと笑った。
「一色君はまだなのですか?」
「はい」
そう答えた時、トートバッグの中で、スマホが音を立てた。取り出してみると、一色君からメッセージが届いている。
「『ごめん。バスに乗り遅れたから、少し遅れる』……だそうです」
「そうですか。ふむ……」
柏木さんは顎に手を当て考え込む様子を見せたが、すぐに顔を上げると、
「なら、先に初詣に行ってしまいましょう」
悪戯っぽい表情で、片目をつぶった。
「えっ?でも、一色君がまだ来ていませんよ。先に詣でたら、申し訳ないです」
私が横に手を振ると、柏木さんは、
「遅れる方が悪いのです」
ときっぱりと言い切った。
「美咲さんの今年最初の初詣は、僕が貰います」
「え、ええっ?」
戸惑っていると、
「さあ、行きましょう」
柏木さんは、自然な動作で私の手を取った。
(……!)
初めて手を繋がれ、心臓が跳ねた。
私を軽く引っ張り、柏木さんは階段を上っていく。
ふたりで連れ立って西楼門から境内に入り、手水舎で手と口を清める。参道にはたくさんの屋台が出ていて、いい匂いが漂っていた。晴れやかな表情の参拝客の流れに乗り、本殿へ向かって歩き出す。
「一色君が来たら、後でもう一度、詣でましょうね?」
どこか勝手な柏木さんを見上げ、念を押すと、
「ええ、構いませんよ」
柏木さんは、ふふっと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!