2.総一郎の提案

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「ぬいぐるみを集めている人、か……」  ぬいぐるみが好きな人に気に入って貰えたら嬉しい。けれど、あの番組の女性のような人とは、少し違うような気がする。 (もっと……こう、唯一のものとして大事にしてもらいたいと言うか……)  飾るのではなく、身近な存在であり、友達のように接して欲しい。例えば、私のぬいぐるみで『ぬい撮り』を楽しんでいる柏木さんのように……。 「そうか、『ぬい撮り』だ!」  私は、はっと思いつくと、ペンを手に取った。ノートに、『ぬい撮り』という言葉を書く。 「『ぬい撮り』?」  花と桃太郎が首を傾げたので、私はスマホを取り上げると、『ぬい撮り』を検索した。個人のブログがヒットし、リンクをタップする。すると、クマのぬいぐるみと旅先の風景を撮った写真をアップしている記事が表示された。 「こんな風に、お気に入りの場所や旅先でぬいぐるみと一緒に写真を撮ることを『ぬい撮り』って言うんだって」 「へえ~」 「あら、意外と写真が上手で、ぬいぐるみが風景に溶け込んでいて、面白いわね」  桃太郎と花が、興味深げにスマホを覗き込んでいる。  どんな人が撮影しているのだろうと思い、ブログの作者のプロフィールを見てみると、「30代、旅行会社でOLやってます。旅行が趣味で、あちこちに旅しています」と書かれていた。 「やっぱり女の人が多いのかなぁ」  柏木さんのような男性は稀なのかもしれない。  ブログのぬいぐるみは、場所に合わせて服を着替えていたり、バッグなどの小物を持っていたりして、写真から持ち主の愛が伝わって来る。 「こんな風に、私のぬいぐるみも可愛がってもらえたら嬉しいなぁ……」 「じゃあ、美咲さんは、そんな人に買ってもらえるようなぬいぐるみを作ったらいいんじゃないの?」  雪の言葉に、ハッとする。 「そうか……そうだよね。うん!そうだよ。雪、ありがとう!」  私は、パッと身を起こすと、ローテーブルの上のペンを取り上げた。作品テーマ「持ち歩けるぬいぐるみ」と記入し、思い付いたペルソナを、夢中でノートに書き込んでいった。
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