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金色に近い程脱色した髪を無造作にセットし、白いデニムに紺の半袖ニットを着た男子学生の手には、ハンバーガーが握られている。どうやら猫は、それを狙って愛想を振りまいているようだ。
「お前、腹が減ってんの?これ欲しいのか?」
男子学生は猫に懐かれてまんざらでもない様子で、ハンバーガーをちぎった。
「ほら、やるよ」
男子学生が猫の口元にハンバーガーの欠片を差し出そうとしたので、
「だ、ダメです!」
私は慌てて男子学生に駆け寄ると、勢いよく腕を掴んだ。男子学生は、突然掴みかかってきた私に驚き、
「うわっ!君、何、突然!?」
と言って仰け反った。
「猫に人間のご飯は、ダメですっ」
男子学生の手から、ハンバーガーの欠片を取り上げる。
「ハンバーガーには、タマネギも入っていますし、タマネギは猫に毒です!」
「あ……へえ、そうなんだ」
私の勢いに気おされた様子で、男子学生が半ば呆然としつつ答える。
「でも、こいつ腹が減ってるみたいだし」
「では、これをどうぞ」
私は男子学生にハンバーガーの欠片を返すと、トートバッグの中から、ジップ付きのビニール袋を取り出した。ビニール袋の中には、いつも持ち歩いている猫のエサが入っている。
「何これ?」
怪訝な表情を浮かべた男子学生にビニール袋を押し付けると、
「ね、猫用のカリカリです!それでは、失礼しますっ」
私はぺこりと頭を下げ、ぽかんとした表情を浮かべている彼から逃げる様に走り去った。
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