3.猫とトライアングル

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(講義前に、妙なことしちゃったな)  男子学生に猫のエサを押し付けた自分の行動を、恥ずかしく思い返しながら講義を受けた後、校舎の外に出ると、 「あ!さっきの猫のエサの人!」 と声を掛けられ、ぽんと肩を叩かれた。驚いて振り向くと、黒猫にじゃれつかれていた男子学生が、人懐こい笑顔で立っていた。 (えっ!何?さっき変なことしたから、何か言いに来たの?)  急に声を掛けられたことに戸惑い、狼狽えていると、 「君、いつも猫の餌持ち歩いてんの?」 男子学生が興味津々といった様子で私の顔を覗き込んだ。少し垂れた目元と、綺麗に整えられた眉の幅のバランスがよく、整った顔立ちをしている。間近で視線を合わされて、私はとっさに身を引いた。 (近っ……) 「猫、喜んで餌食べてたよ。よっぽど腹が減ってたんじゃね?」  男子学生は私の態度を気にした様子もなく笑った後、 「そうそう、君に聞きたいことがあったんだ。俺の財布どこかで見なかった?さっきどっかに落としたみたいでさ……」 と、弱ったように頭を掻いた。 (あ、なるほど……。落とし物のことを聞きたかったんだ)  見かけた覚えはなかったので、ふるふると首を振ると、 「やっぱ知らね?うわ、マジで困る。あの中に、キャッシュカードも学生証も入ってんだよね」 男子学生は「最悪」と言って、溜息をついた。 「インフォメーションセンターに聞いてみたらどうでしょう?落とし物として届いているかもしれませんよ」  小さな声で提案すると、 「ああ、それ、さっき聞いて来た。届いてないって。出て来たら、スマホに連絡してくれるらしいけど」 既に対策済みだったようだ。 「弱ったな……」 (本当に困っているみたい)  男子学生が気の毒になり、見かねた私は、 「あの……一緒に探しましょうか?」 と声を掛けた。「え?」と言った後、男子学生の目が輝く。 「マジ?うわっ、助かる。サンキュー。君、いい人だね!」  感激した様子で両手を握られ、ぶんぶんと上下に振られた。
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