3.猫とトライアングル

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 一色君は映画研究部に所属しているのだそうだ。部室を訪れると、何人かの学生が部屋に(たむろ)していて、一色君の姿を見ると、あれ?という顔をした。 「お前、さっきも来なかったっけ?」  すっきりとした短髪の男子学生が、一色君の顔を見て、不思議そうに言った。 「林先輩、俺、財布落としたんっすわ」 「え、お前、マジで?」  心配するどころか、林先輩はゲラゲラと声を出して笑った。 「財布落とすとか、ウケる」 (あ、なんだかちょっと感じ悪い、かも……)  私は思わず眉をひそめたが、一色君は気にした様子もなく、 「笑い事じゃないっすよ。どっかで見ませんでした?」 と肩をすくめた。一色君と林先輩のやり取りを聞いて、女子学生たちも、 「一色君、財布落としたんだって~」 「ええ~カワイソ~!」 可哀想という割にあまり気の毒がっておらず、一緒に探す気もない様子で声を上げた。 「いや、カワイソウとか、そんなんいいからさ、どっかで見かけたら教えてよ」  相変わらず、何を言われても気にする様子のない一色君が、女子学生たちに声を掛けると、 「はーい」 彼女たちはくすくすと笑いながら気のない返事を返した。  私は完全に置いてけぼりの状態で、部室の入口の側に立っていた。部員同士仲の良さそうな映画研究部が、自分とは、別世界のことのように感じられる。 (何だか、この人たち、大学生活を楽しんでるって感じ……)  いたたまれない気持ちでそっと扉から離れ、映画研究部の部室を後にする。
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