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一色君は映画研究部に所属しているのだそうだ。部室を訪れると、何人かの学生が部屋に屯していて、一色君の姿を見ると、あれ?という顔をした。
「お前、さっきも来なかったっけ?」
すっきりとした短髪の男子学生が、一色君の顔を見て、不思議そうに言った。
「林先輩、俺、財布落としたんっすわ」
「え、お前、マジで?」
心配するどころか、林先輩はゲラゲラと声を出して笑った。
「財布落とすとか、ウケる」
(あ、なんだかちょっと感じ悪い、かも……)
私は思わず眉をひそめたが、一色君は気にした様子もなく、
「笑い事じゃないっすよ。どっかで見ませんでした?」
と肩をすくめた。一色君と林先輩のやり取りを聞いて、女子学生たちも、
「一色君、財布落としたんだって~」
「ええ~カワイソ~!」
可哀想という割にあまり気の毒がっておらず、一緒に探す気もない様子で声を上げた。
「いや、カワイソウとか、そんなんいいからさ、どっかで見かけたら教えてよ」
相変わらず、何を言われても気にする様子のない一色君が、女子学生たちに声を掛けると、
「はーい」
彼女たちはくすくすと笑いながら気のない返事を返した。
私は完全に置いてけぼりの状態で、部室の入口の側に立っていた。部員同士仲の良さそうな映画研究部が、自分とは、別世界のことのように感じられる。
(何だか、この人たち、大学生活を楽しんでるって感じ……)
いたたまれない気持ちでそっと扉から離れ、映画研究部の部室を後にする。
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