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私は学生会館を出ると、入口の側のベンチに腰を掛け、一色君を待つことにした。
「サークルかぁ……」
入学当初はどこかに入ってみようかと考えたこともあったが、人付き合いに自信がなく、結局どこにも入らないまま、ここまで来てしまった。
(どこかに入っていたら、何かが変わっていたのかな……)
そんなことをぼんやりと考えていると、私の足元に、見覚えのある猫が近づいて来た。
「あ、あなた、さっきの子ね」
話しかけると、猫は、
『そうよ』
と「ニャーン」と鳴いた。うさぎたちと会話をする時と同じように、猫の声が脳裏に響いてくる。ベンチから降りてしゃがみ込み、
「あなた、とっても綺麗な毛並みをしてるね。黒光りして、つややかで……ちょっと撫でてみてもいい?」
と尋ねると、
『特別に許してあげるわ』
と許可をもらった。
「ふふっ、ありがとう。ベルベットのような感触で気持ちいいね。目の色も素敵。あなた本当に美人さんね。――そうそう、あなた、どこかでお財布が落ちてたのを見なかった?」
私がしきりに褒めるので、気をよくしたのか、
『財布?それなら、見たわよ』
猫はすんなりと教えてくれた。
「えっ?どこで……」
場所を聞き出そうとした時、
「弥生さん?」
不意に後ろから声を掛けられ、私は吃驚して振り向いた。私が、ぶつぶつとひとりごとを言っていると思ったのか、一色君が不思議そうな顔で近づいて来る。
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