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『さっき、ご飯をくれた人!』
猫が一色君の姿に気づき、「ナー」と甘えた声を出して足元にじゃれ付いた。
「お前、さっきの黒猫か?」
一色君は相好を崩すと、私の隣にしゃがみ込んで、猫の顎を撫でた。
『そうよ』
猫の言葉は一色君には聞こえていないはずだが、「ニャーン」という鳴き声が肯定に聞こえたようで、
「やっぱりそうか」
一色君はにこにこと猫を撫で続けている。
「猫さん。お財布はこの人のなの。もし知っていたら、教えて欲しいな」
私は猫にそっと話しかけた。一色君が、急に猫に話しかけた私を、不思議そうな顔で見た。けれど、せっかく手掛かりを掴めたので、私は構わずに、
「お願い」
と、再度、猫に頼んだ。
『いいわよ』
猫は人間臭い動作で頷くと、すっと身を翻した。
『ついて来なさいよ』
身軽な様子で階段を下り、走り出す。
私は一色君に、
「あの子がお財布の場所に案内してくれるそうなので、行きましょう」
と声を掛けた。
「え?どういうこと?」
一色君は訳が分からないという表情を浮かべたが、
「とりあえず、行けば分かると思います」
私は彼を促して、時々振り返りながら小走りに走って行く猫の後を追った。
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