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構内を猫の後について移動する。すると、猫は最奥の校舎の前まで辿り着き、外階段を俊敏な動きで上って行った。狭い踊り場で足を止め、「ニャー」と鳴く。
「あ!俺の財布!」
踊り場に黒い長財布が落ちているのを見つけ、一色君が目を丸くした。拾い上げながら、
「そういや、俺、講義の後、この階段使って降りたわ」
自分の行動を思い出し、納得した顔をする。一色君は、財布の中をあらためると、
「キャッシュカードも学生証も金も取られてない。良かった」
ほっとした表情になった。
「良かったね。――ありがとう、猫さん」
私がしゃがみ込んで猫の頭を撫でると、
「お前、すげぇな」
一色君も、誇らしげな様子で尻尾を揺らしている猫に手を伸ばし、頭を撫でた。
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